資金力はバイデンが2倍…トランプが克服できない二つの弱点 民主党の“切り札”とは

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日本が抱えるリスク

 ここ数年、多くの日本企業は米中対立によるサプライチェーンリスクの回避を理由にメキシコへ工場を移転させてきた。が、トランプ氏にとって、そのメキシコこそが不法移民や麻薬流入問題といった数々の問題をアメリカにもたらす“厄介者”にほかならない。従って、トランプ政権は過度の関税賦課などをカードに、強力な脅しや揺さぶりをかける公算が大だ。

 日本企業は仮にチャイナリスクを回避できても、かかる“トランプリスク”に直面する事態は避けられないだろう。トランプ氏は対米貿易黒字を重ねる国々に次々と制裁をチラつかせた交渉を行う可能性が高い。

 とくに中国、EU、メキシコに次ぐ対米貿易黒字国4位のベトナムは危険だ。2023年に対米貿易黒字1040億ドルを計上したベトナムは、トランプ氏の標的となるだろう。対中サプライチェーンの見直しを受けた多くの日本企業の逃避先だからだ。が、逃げたにもかかわらず、今度は“トランプ関税”に苦しめられることになる。

小規模の紛争に発展する可能性も

 さらに、最大の懸案は米中対立のエスカレーションである。トランプ前政権は、中国に対して高い関税や半導体をはじめとする戦略物資の禁輸といった経済制裁を課していた。

 トランプ氏が再び大統領になると、台湾への戦闘機や中距離ミサイルの売却などの防衛協力も含む、よりアグレッシブな措置を取ることが予測される。共和党やトランプ氏の政策立案を担うシンクタンクはいずれも対中強硬路線で、民主党のバイデン政権のように真綿で首を絞めるようなやり方ではなく、より直接的な手法を好むからだ。

 米中対立は過去のトランプ政権の時より遥かに激しいものになるだろう。中国側は強権体質の習近平政権で、ロシアのプーチン大統領との連携を誇示するなどアメリカの圧力に容易に屈することはない。よって、米中がお互いカードを切り続ける間に小規模の紛争に発展する可能性すら否定できない。台湾有事が起こった場合、中国が台湾の一部と主張する尖閣諸島への同時侵攻も十分あり得る。

 台湾有事のような直接的な軍事衝突に至らなくても、中国が奥の手であるレアアースの輸出禁止に踏み切れば、日本企業のサプライチェーンは甚大な被害を受ける。菅義偉前首相が出席した2021年のG7コーンウォールサミット以来、西側諸国は独自のレアアース調達網を強化しているが、まだ十分な対策が講じられていないからだ。

 日本の政治現場では相変わらず混乱が続き、国民の政治不信は極度の高まりを見せている。まさに内憂外患で、この秋以降の日本はかつてない荒波に直面することになる。

渡瀬裕哉(わたせゆうや)
早稲田大学公共政策研究所招聘研究員。日系・外資系ファンド30社以上に米国政治の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリスト。ワシントンD.C.で実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティング「水曜会」出席者で、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会「FREEPAC」には日本人として唯一、来賓として迎えられている。

週刊新潮 2024年5月30日号掲載

特別読物「『ほぼトラ』報道は時期尚早 日本を左右するアメリカ大統領選の読み方」より

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