「空港のトイレで“ブツ”を飲み込み、挿入して…」 20代女性が“コカインの運び屋”になった哀しい理由
「コーク・ミュール」
コカインを飲み込んで密輸するプロの運び屋のことを、海外では「コーク・ミュール(Coke Mule=コカイン運搬用のラバ)」、または、「ボディー・パッカー」と呼ぶ。飲み込みだけにとどまらず、肛門や膣内にも隠す。中南米では僅かな報酬で貧困層を使うケースも多い。とりわけ重宝されるのは“妊婦”だ。妊婦なら欧米の税関で厳しい検査を受けることはない、と密輸業者は高をくくっているのだ。
“ミュール”や“パッカー”は、ブツを数グラム~10数グラムに分けてラップでぐるぐると巻き、その固まりに油をつけて何十個も食道へ流し込む。そして、入国が成功したら排泄する。1キロ以上のブツを飲み込んだ例もあるが、これは自殺行為だ。今年1月には、フランスから羽田まで、覚醒剤とコカイン約1キロを密輸しようとしたイスラエル人の男が機内で倒れ、搬送先の病院で死亡している。警視庁は、体内から計89個の包みが見つかったと発表。死因は急性覚醒剤中毒だった。2019年5月には、コロンビアのボゴタからメキシコを経由して成田に向かった日本人の男がやはり機内で倒れ、その後に死亡した。男の胃や腸の中からは、実に246袋のコカインパックが発見され、死因はコカインの急性中毒とメキシコ当局は発表している。これは前例のない驚異的な事件と言える。
「本当に死んだ人いるの?」
話を戻そう。女は我々の繰り返しの説得で、ようやく態度を軟化させ、「本当に死んだ人いるの? 実は、お尻の奥に……」と、か細い声で語り始めた。
――覚醒剤かコカインか、どの程度の量だ。自分で出せるか?
「チャリ(コカイン)だと思う。量は少しかな。自分で出せるから……」
直ちに女性麻薬取締官を立会人として、女に直腸内のブツを取り出させ、提出を求めた。ブツはコカイン約40グラム。ラップでカチカチに固められた上、コンドームに詰められ、さらにラップで二重に巻かれてオイルが塗られていた。余談になるが「見ないで」と口ごもりながら俯きかげんにブツを提出する女の姿が今でも忘れられない。女性取締官が「辛かったね。でも本当にお尻だけなの?」と問い質したところ、「えーと、あっち(膣内)はちょっと具合が悪くて……」と小声で返答。実際に隠匿している様子は窺えなかった。
ところが、暫くすると、女は落ち着きがなくなり、腹痛を訴え出した。冷や汗もかいている。ここで改めて“飲み込み”を疑うことになる。私が「飲み込んでいるのだろ、言いづらかったよな。レントゲン撮影しよか」と促すと、女は無言のまま頷いた。
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