麻倉未稀 乳がん発覚で文字通りの「八方ふさがり」を経験… 改めてわかった名曲「ヒーロー」の偉大さ

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 映画『フットルース』の挿入歌で、ボニー・タイラーが歌った『ホールディング・アウト・フォー・ア・ヒーロー』の邦楽カバーとなる『ヒーロー』は麻倉のほか、葛城ユキ、北川剛が歌ったが、原曲を含め、麻倉が歌った『ヒーロー』が他と異なるのは、さびで『I need a hero』と歌われている箇所が、麻倉版だけ『You need a hero』となっている点だ。

 日本語版の作詞はいずれも売野雅勇。なぜ違うのか、売野に尋ねなければと考えつつも、いつも機会を逃していた麻倉だが、近年になってようやく尋ねることができた。売野の答えは「君の場合は全ての人に対して、頑張ろうぜ、という『ヒーロー』なんだよ」というものだった。

 ただ麻倉自身は、そんな謎が氷解する前から、全ての人に対して力づけるように『ヒーロー』を歌い続けてきたのだ。

見つかった乳がん

 自身のデビュー35周年の記念イヤーだった2016年を忙しく走り終えた麻倉。アーティストとしてだけでなく、父が大病を患ったことで、その看病も含め、公私ともに東奔西走した。

 その後、「自分もきちんと身体の検査をしておこう」と考えていたが、父がICUに入り、なかなか出てこられない状況となったこともあり、タイミングを逸していた。

 そうした中、17年4月にテレビ番組の企画で人間ドックを受診することとなったが、その検診で受けたCTスキャンで胸部に影が映っていた。

「それより前から、時々、何か変だな、という気持ちもあって。(胸部が)つるような感覚もあったんです」

 とはいえ、自分の身に生じていた変化の重大さにまでは気付いていなかった。検査から4日後、精密検査を受けてくださいという連絡をもらった日には、バレエのレッスンに出掛けようとしていたところだったという。再度、CTスキャンを撮ったが、「しっかり映っていて、これは大ごとだな、と」とある程度の覚悟を持った。

 だが、乳がんにはタイプがあるといい、「それが判別するまでは治療に進めないんです。だから先々まで仕事は入っていたけど、将来が見えなくなってしまって」と八方ふさがりに陥ってしまった。

 ひとまず、タイプが分からないので、万が一放射線治療に連日通わなくてはならなくなった場合、居住する神奈川県藤沢市から東京まで、わずかの時間の放射線治療のために長い時間をかけて通うのも、体力を消耗する。藤沢市の病院に通うことが決まったものの、八方ふさがりの状況が変わったわけではなかった。

「それまでもいろんな壁を乗り越えてきたと思っていたけど、こんな八方ふさがりはなかった。どこにも進めない。これが本当に八方ふさがりというのだなと実感しました」

 5月の大型連休明けにようやくがんのタイプが分かり、手術日程も決まった。
「先生、手術後、すぐに歌えますか?」
 麻倉がそう尋ねると、「3日したら歌えるから」との答えが返ってきた。

 麻酔の掛け方によっては声が出るまで1カ月かかると聞いていたが、「気管挿管を抜く際にのどに傷がつくケースがあり、そうするとすぐには歌えないのですが、特殊な挿管で傷をつけないようにするため、私と執刀する先生と麻酔科の先生の都合が合う6月22日に手術をすることになりました」。

 当時は乳がんを公表していなかったため、事務所に前後1週間のスケジュールを空けてもらうように依頼し、全摘出、乳房同時再建の手術を無事終えた。

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