テレ東は不適切表現で即、打ち切り、かつては取材中に死者も…「警察密着番組」の多すぎる問題点

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警察密着特番はエンタメ

 テレビ東京が20年にわたって年末・年始や改編期に放送してきた「激録・警察密着24時!!」を打ち切る。不祥事が発端だが、以前から警察密着特番には批判があったことも影響しているようだ。全民放が放送してきた警察密着特番だが、他局にも余波が生じるのは必至だ。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

 警察密着特番を最初に生み出したのはテレビ朝日。1978年「水曜スペシャル(水スペ)」(水曜午後7時30分)の枠で「警視庁潜入24時!!」と題して放送し、高視聴率を得たため、シリーズ化した。

「水スペ」と言えば、「川口浩探検隊シリーズ」が看板だったが、ドキュメンタリータッチのエンターテインメント番組という点で両番組は一致していた。どちらも演出の存在を抜きにして成立しなかった。

 テレ朝の「警視庁潜入24時!!」が好調だったため、他局も相次いでほとんど同じ内容の警察密着特番を放送するようになった。視聴率が獲れるうえ、警察が相手なので謝礼は要らず、ギャラが必要なタレントを出演させなくてもつくれるから、魅力的なコンテンツだった。一方で警察側もPRになるから、積極的に協力した。

 もっとも、約46年も前に骨格がつくり上げられた番組だから、無理が生じている。今回のテレビ東京の不祥事の場合、「激録・警察密着24時!!」の昨年3月28日放送分で、「鬼滅の刃」の関連商品に関する不正競争防止法違反事件を取り上げ、4人が逮捕されたと伝えた。しかし、そのうち3人は不起訴になっていた。無罪どころか裁判にすらならなかったのだ。それを番組に盛り込まなかった。

 さらに同じ事件で「逆ギレ」や「今度は泣き落とし」といった扇情的なナレーションや「ニセ鬼滅組織を一網打尽」などの刺激的なテロップを多用した。これも問題視された。

 テレ東の石川一郞社長(66)は5月30日の定例会見で、「関係者の皆様の名誉を傷つけたことを深く反省し、心からおわび申しあげます」と謝罪。そのうえで番組の打ち切りを宣言した。

 他局も原則的に起訴と不起訴の確認はしないとされている。逮捕された人のうち、7割近くは不起訴になっていることが忘れられている(2022年、政府統計)。

 映像の使用許可も本人に取っていない。いくらモザイクや音声加工を施していようが、知人らには逮捕が分かってしまう可能性がある。また、他局もテレ東と同じようなナレーションを流し、テロップを使うなど、演出を施している。

警察密着特番の問題点

 テレ東の不祥事には警察密着特番の抱える問題が凝縮されている。一番大きな問題は、公益性に基づき、逮捕時などの映像の放送が容認されているニュースや情報番組とは性格が全く異なるにもかかわらず、逮捕された側の権利が考えられずに放送されてきたこと。いつ問題化してもおかしくなかった。警察密着特番が初めて放送された約46年前とはコンプライアンスの基準も人権意識もまるで異なるからだ。

 テレ東の親会社である日本経済新聞社で敏腕記者として名を馳せた石川社長もそれに気づき、打ち切りを決断したのではないか。石川社長は危機管理意識が強いようで、「SMILE-UP.」(旧ジャニーズ事務所)のタレントの 受け皿となった「STARTO ENTERTAINMENT」の所属タレントの新規起用も民放で唯一、止めている。

 警察密着特番は過去にも大きな問題があった。2013年、TBSの警察密着特番が鹿児島市内で取材していた警察官2人が、会社員男性(当時42)を死亡させてしまう事件が起きた。のちに2人の警察官は業務上過失致死罪で有罪判決を受ける。

 事件の経緯はこうだ。ケンカの通報で駆けつけた警察官2人が、カメラの前で会社員男性を路上に抑え付けた。男性は胸部などの圧迫による低酸素脳症で死亡してしまう。カメラは一部始終を捉えていた。

 しかし、TBSはこの映像を警察密着番組でもニュースでも使わなかった。テレビパーソンの間では「警察との関係を損ねず、番組を続けたいからだろう」などと言われた。

 一方で「取材映像は放送目的以外には使わない」というテレビ界の大原則がありながら、この映像を収めたビデオテープが差し押さえ令状に基づいて鹿児島県警に押収されるのを許してしまった。

 当時、TBSは極めて遺憾としながらも県警への抗議はしていない。この警察密着特番は番組制作会社への外注でつくられたもので、同局にビデオテープの所有権がないというのが理由だった。

 他局の警察密着特番もほぼ外注だ。このため、いざというときに責任の所在が曖昧になりかねない。また、カメラを向けられた警察官が、つい張り切り過ぎてしまう可能性も捨てきれない。カメラを向けられた人間はどうしても普段とは違ってしまう。

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