千葉県は半年で1900便も減少…各地で相次ぐ路線バス“大幅減便”から見える日本の問題点
働き方改革によって圧迫される生活
こうした問題を引き起こしかねないバスの減便は、避けられなかったのだろうか。
働き方改革関連法(改正労働基準法)によって、今年4月1日以降、自動車運転業務の時間外労働時間の上限は、年間960時間に制限された。このために発生する問題が、総称して「2024年問題」と呼ばれている。労働時間の短縮は、いうまでもなく、運転手の労働環境を健全化し、心身の健康を守るためのものである。
ところが、運転手がゆとりのある生活を送れるようにした結果、バス便が減って、駅から離れた地域に住む人たちの生活の質が低下しようとしている。その影響で、すでに述べたように、高齢者を中心に健康の維持が困難になるとしたら、この法律はある人たちの心身の健康を守りながら、ほかの人たちの心身の健康は害していることにもなる。
「2024年問題」は物流にも暗い影を落としている。トラック運転手の労働時間が減少したことで、1日に運べる荷物の量が減って物流コストが増加し、輸送運賃の値上げが相次いでいる。
個人レベルへの影響を考えると、宅配便やネットショッピングの配送料の値上げが懸念されるのは当然だが、それだけにはとどまらない。物流コストが増えれば、その分は製品価格に転嫁され、消費者が負担することになる。現在、ただでさえ円安の影響で物価が高騰しているところに、別の物価上昇圧力がかかるわけで、個人の生活はさらに圧迫される。
結果として、消費マインドが冷え切って、景気の停滞が続くことにつながってしまう。さらにいえば、人々の生活を守るためにもっとも有効なのは好景気である。岸田文雄総理が繰り返す「成長と賃金の好循環」の実現が、私たちが余裕をもって暮らすための、いちばんの近道のはずである。ところが、現実には、運転手の心身の健康を守るために、広く日本国民の健康的な生活が奪われようとしている――。そういっても過言ではないだろう。
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