千葉県は半年で1900便も減少…各地で相次ぐ路線バス“大幅減便”から見える日本の問題点

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バスの減便は健康寿命に影響する

 全国で路線バスの減便が相次いでいる。たとえば、千葉県が5月17日に発表したところでは、県内の路線バスは4月16日の時点で、昨年10月1日とくらべ1900便も減っていたという。これは全体の約6%に相当する。神奈川県の横浜市営バスは、4月1日に290便を一挙に減らし、それでも足りず、22日に77便を追加で減便した。

 主な原因は、いわゆる「2024年問題」である。この4月から、自動車運転業務に携わる人の労働時間が規制された。そのため、一人の運転手が働ける時間が減り、結果として運転手不足を来たしているのである。しかし、「運転手のためだから仕方ない」という話ではない。この問題には、なにをするにも場当たり的で、正の効果をねらいながら負の連鎖を生み、衰退を招いているいまの日本のありようが、象徴的に現れている。

 話をはじめる前に、路線バスの減便でどんなデメリットが生じるのか、明らかにしておきたい。バスが減便になれば、利用者一人ひとりの不便が増すに決まっているが、ここでは社会全体への負荷に絞って考えたい。まず、外出が億劫になる人が増えることが容易に予想される。その際、とくに影響が大きいと思われるのは高齢者である。

 日本は世界一の長寿国ではあるが、健康上の問題で日常生活が制限されることがない期間、すなわち健康寿命は、男性が72.68歳、女性が75.38歳で、平均寿命との差が男性で約9年、女性で約11年もある。むろん、健康寿命を延ばし、自立して健康にすごせる期間を長くすることが、個人の幸福にも医療費の抑制にもつながるわけだが、では、健康寿命はどうすれば延ばせるのか。

 ひとつは、定期的な運動をとおして、加齢とともに低下しやすい筋力を維持することが重要だとされる。また、フレイルや認知症を予防するためには、精神的な充足感が欠かせないといわれる。高齢になると外出する機会が減りやすいが、趣味でも習い事でもボランティアでもいいから、積極的に外に出て人とコミュニケーションを欠かさないことが大切だという。社会との接点を持ち続けることが推奨されているのだ。

 しかし、路線バスが減便になれば、ただでさえ出かける気持ちが減退しがちな高齢者が家にこもり、健康寿命が維持できなくなることが懸念される。

 また、空き家が増加し、地域全体が荒廃することも心配だ。鉄道の駅から徒歩圏内であれば、バスが減便になってもそれほど困らないが、駅との往復にバス便を前提としている地域では、減便になれば生活上の利便性が後退する。横浜市の場合、数年前まで1時間に3本程度の便があったのが、1本程度に減ってしまった地域もある。そうなると、その地域への居住をあきらめる人が増え、空き家が増加し、治安も悪化することが心配される。

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