藤井聡太八冠・名人戦“初防衛”豊島将之九段に試行錯誤の中で生じた「迷い」が

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 将棋の第82期名人戦七番勝負(主催・毎日新聞社、朝日新聞社)の第5局が5月26、27日の両日、北海道紋別市の「ホテルオホーツクパレス」で行われ、藤井聡太八冠(21)が挑戦者の豊島将之九段(34)に99手で勝利。対戦成績を4勝1敗とした藤井が史上最年少で名人位を防衛し、様々な戦法で挑んだ豊島の返り咲きはならなかった。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

13年ぶりの名人戦での振り飛車

 この日の立会人は、屋敷伸之九段(52)、副立会人は広瀬章人九段(37)と野月浩貴八段(50)が務めた。これで藤井は奪取8回、防衛14回と、タイトル戦22連覇の最多記録を更新した。

 先手は藤井。豊島は4手目に「4四歩」と角道を止め、16手目に「4二飛」と飛車を4筋に振った。いわゆる「四間(しけん)飛車」である。最近は時折「振り飛車」も見せていた豊島は、玉を「美濃囲い」で守る。振り飛車戦法の代表的な囲いだ。

 伝統の名人戦で振り飛車が使われたのは、羽生善治九段(53)が2011年の防衛戦で森内俊之九段(53)に対し中飛車(5筋へ飛車を振る)を採用して以来13年ぶりだという。

 振り飛車は久保利明九段(48)などの使い手はいたものの、AI(人工知能)が推奨しないことやトップに君臨する藤井が全く使わないこともあってか人気がなかった。最近は菅井竜也八段(32)の活躍などで復権しており、今回それを象徴していた。

「古典的」な印象

「居飛車」の藤井は「9九」に持ってきた自玉を金銀4枚でがっちり囲った。穴熊は「最堅牢」だが囲うのに手数がかかり、その間に攻め込まれるリスクがある。しかし、ひとたび囲ってしまえば王手金取りや王手飛車など遠方からの攻撃にさらされる危険もなく、腰を据えて攻撃を考えられる利点がある。

「穴熊vs美濃囲い」という古典的な印象の将棋は、藤井の47手目が1日目の封じ手となる。2日目、屋敷九段が開封した「封じ手」は、大方の予想通り戦端を開く「2四歩」。

 力戦模様になる中、藤井が角2枚、豊島が飛車2枚という闘いになる。豊島は竜と飛車で藤井玉を狙うが、なかなか穴熊の崩しに見通しが立たない。藤井が「5九」に打った“孤独な歩”がよく守っていた。

 対する藤井は、穴熊の上方を守らせていた「7七」の馬を「8六」から「6四」に動かす。「4六」に据えられた角と合わせて攻守に有効に働かせながら、豊島玉に狙いを定める。豊島は「6六」の歩で敵陣への成り込みを狙うが、その余裕もないうちに徐々に劣勢になる。結局、一度も王手ができていない。

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