「作曲者が自分であの曲は良かったとか言うたらアホ」 「かに道楽」に「アホの坂田」など5000曲以上を手がけた作曲家、キダ・タローさんの“誠実さ”

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「良い詞にはメロディーを感じ、語りかけてくる」

 作曲は1日に数曲を手がける多忙さだった。

「良い詞にはメロディーを感じ、語りかけてくると話していた」(相羽さん)

 CMソングは依頼会社の社長の思いを想像して作った。

 キダさんと長年にわたり名コンビを組んだ作詞家、もず唱平さんは述懐する。

「歌詞を渡すと、この人のお名前は、所番地は、どんな職業、年格好は、と問われる。歌詞の人物像を具体的にイメージして奥行きを出そうとしたのです。歌詞の言葉のイントネーションに矛盾しない細やかな曲作りでした。だから自然に聴こえて耳に残ります」

「探偵!ナイトスクープ」の出演でも人気を呼ぶ

「探偵!ナイトスクープ」の出演でも人気を呼ぶ。そもそもは89年、信号機から流れる曲の音程がずれているという調査依頼に登場。くだらないと一蹴せず本気で調べる番組の姿勢を全うした。有名な「浪花のモーツァルト」の異名は同番組の松本修プロデューサーがつけたもの。

「しゃれとはいえ、そう呼ばれたことを喜んでいました。音楽制作は東京が当たり前という中、これからも大阪で歌を作るとの自負につながった」(もずさん)

「作曲者が自分であの曲は良かったとか言うたらアホ」

 64年に歌手の美千代さんと結婚。妻と家で過ごすことを生涯何より好んだ。

 3月29日に「探偵!ナイトスクープ」の収録を終えた後、体調を崩す。

「3月26日に電話で話したところでした。76年に一緒に作った『タイガース音頭』を、演歌歌手の浅田あつこが今秋に発売予定のアルバムに収録する方向になったことを伝えたのです。キダさんは大笑いしながら即座に“時代がたっているから、アレンジを新しくした方がええな”と言うぐらい聴く側の気持ちに思いを寄せていた。その声には力と張りがありました」(もずさん)

 5月14日、93歳で逝去。

 作曲者が自分であの曲は良かったとか言うたらアホ。頼まれたことをきっちり長いことやってきただけと語る誠実な名手だった。

週刊新潮 2024年5月30日号掲載

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