名古屋ポーカー店店長の自殺は「パワハラと過重労働が原因」と遺族が提訴 店側は「失恋のショック」と反論 遺品には「身の毛もよだつ暴行動画」が残されていた

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さらに遺品から出てきた勤務実態を残した「新証拠」

 ほかにスマホで確認できたのは、遥樹さんが店の関係者と交わしていた膨大なLINEだった。そこには病院でA氏が語っていた失恋相手と思われる、店の関係者B子さんとのやりとりも確認できた。

 だが、母は何よりも暴行動画にショックを受けた。こんな職場環境で息子は働かされていたのか。周囲との人間関係がおかしくなっていったのは、職場環境が遥樹を追い詰めつめたからなのではないかと疑いを持ったのである。

 葬儀を終えて2カ月が経った21年1月、母はさらに疑念を強める証拠に行きあたった。それは遥樹さんのスマホに入っていたあるアプリだった。

 アプリは店内の防犯カメラが映したものを店外でもリアルタイムに確認できるもので、3カ月分遡って録画が見られる仕様になっていたことに気づいた。

 それから母は、その時点で遡れた10月始めから亡くなった前日の11月15日まで、遥樹さんが店でどんな様子で勤務していたのか確認していった。すると、「過重労働の実態が浮かび上がった」と言うのである。

「定時は午後3時から深夜0時までだったのですが、毎日のように1〜2時間くらいは残業し、時には深夜4時5時くらいまで店に残って働いていました。休みの日もレジ締めのために必ず出勤していました」

 弁護士のアドバイスを受けながら、スマホアプリの録画映像で確認できた遥樹さんの時間外労働を集計したところ、10月2日から31日までの時間外労働は101時間21分に及んだ。これを受け、母はパワハラのみならず過重労働も重なり、遥樹さんは精神を病んでいったに違いないと考えたのである。

通夜の時から店に不信感を持っていた

 そもそも店への疑念は葬儀の時からあったという。父が代わって語る。

「通夜に店の関係者が誰もやってこないのです。唯一A氏だけがやってきましたが、もう葬儀が終わった頃合いで、遥樹の遺影に手も合わさずに長男と長女とだけ話して帰って行きました」

 応対した兄はこう語る。

「カジュアルなジャンパーを羽織り、ズボンにはジャラジャラ金属のチェーンのようなものをぶら下げていたのを覚えています。しかも、手を合わせにやってきたわけではなく、店のロッカーにあったスーツなどの遥樹の私物をどっさり袋に入れて持ってきた。非常識な態度に頭にきましたが、その気持ちを抑えながら遥樹に何があったのか聞きました」

 そこでA氏は、遥樹さんが店の関係者であるB子さんに失恋してずっと思い悩んでいたと説明したという。

「『このようなことになってB子も傷ついているし、責めないで欲しい』と話しました。彼女のショックも考えて、一部をのぞき店の関係者には遥樹さんの死を内密にしているとも。私はその時点で暴行動画を見ていたのですが、A氏の方から『B子さんに夢中になっていて仕事が疎かになっている遥樹さんを叱るため、私も一度彼を殴ったことがあります』と打ち明けてきました」(兄)

 だがこうしたA氏の説明も、遺族の目には店で起きていた遥樹さんの「死因」を隠蔽しているようにしか映らなかった。そして父母は、遥樹さんの死が店の責任にあると訴え、21年4月、名古屋東労働基準監督署に労災申請を行ったのである。

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