「言った言わない」の不毛すぎるやり取りをなくして、社員にやる気を出させるシンプルな方法とは

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5月病の季節

 5月病は今では新入社員に限らず、さまざまな役職の社員が発症する病の一つといえるだろう。それは当然、経営層の悩みのタネになっているわけだが、見方を変えれば、彼らのやる気をそぐような状況を作ってしまっている会社側に問題があるともいえるのかもしれない。

 ではなぜやる気がなくなるのか。人それぞれだろうが、何らかの形で会社や上司に失望したというケースは珍しくない。それを防ぐにあたって「可視化」の重要性を説くのが、経営コンサルタントの菊池明光さんである。これまでに約100社のコンサルティングを担当した経験から、従業員のモチベーション低下から業績不振まで、企業が抱える多くの問題は、「可視化」によって解決できるというのだ。著書『とにかく可視化 仕事と会社を変えるノウハウ』を上梓したばかりの菊池さんに話を聞いてみた。

眼前可視化の効能

 ダメな組織の特徴として菊池さんが真っ先に挙げるのは「ムダ」だ。これは誰しもがうなずくことだろう。

「問題を抱えている企業には、とにかくムダな会議やビジネス上のやり取りが多いということに行き当たりました。それはとりもなおさず、生産性に大きく影響することになります。そういったムダなやり取りの特徴として、アジェンダ(議題)やゴールが設定されていない、話者が限られるといったものがあります。何となく集まって声が大きい人がしゃべって方向性が決まったかに見える……みたいなことってよくありますよね? さらに、その場で誰が何を言ったかしっかりと認識されず、仕事をした気になっているという点も大きな問題です」

 こういった点を解決すべく菊池さんが提案するのが「眼前可視化」である。会議やビジネス上のやり取りの場でリアルタイムに目の前で議事録を書きながら、その場で「議論を可視化しつつ会議を進行する」というやり方だ。
 
「これによって、『言った・言わない』や『前回のやり取りはどこまでだったっけ?』などといった間抜けな会話が間違いなく一掃されることになります」
 
 議事録を取るなんて当たり前、と思っている方は恵まれた環境下で働けているといえるのかもしれない。こんな基本的なことができていない企業は珍しくないようなのだ。

問題発生要因を特定すること

 もちろん議論自体に中味がなければ意味がない。しかし、ここでもダメな企業には共通点があるという。

「多くの企業との間で多くの会議をする中で見つけた、決定的に良くないことを一つ挙げるなら、『問題発生要因を特定せずに打ち手ばかりが議論されていること』があります。なぜそれが起こったのか、問題発生要因を特定しなければ本当に効果的な打ち手はわからないはず。ところがなぜかそこを突き詰めないままに対策だけ議論する組織が多いのです。

 の中でご紹介した、わかりやすい事例を挙げてみましょう。

 重要な会議に遅刻してくる問題メンバーがいたとします。ひと昔前なら、『気合が足りない』と叱責しておしまいかもしれませんね。でも、そうではなくて、まずは遅刻の原因を突き詰めていくのです。

 メンバーに『なぜ寝坊したのですか?』と聞くと、目覚ましをセットし忘れたと答えたとします。それで話を終わらせずに、『ではなぜセットし忘れたのか』を聞く。すると、『今日の会議が重要だという認識が薄かったから』という答えが返ってきた」

ようやくわかったこと

 さらに重ねて聞いていくと、こんなことがわかったという。

「自分が出ても出なくても影響がない会議で、ただ命じられたから出なければいけないと思っていた、という認識を持っていることが明らかになります。

 こうしてようやく、このメンバーに対して必要なのは『気合い』でもなければ、高性能の目覚ましでもなく、会議の意味をきちんと認識させるマネジメントだということがわかるわけです

 逆に言えば、このメンバーに対して会議に出ることの意味付けをしっかりできていなかったというマネジメントのエラーが問題発生要因だったということが明らかになったというわけです」

 ここまででまずはメンバーの意識、あるいはマネジメントの問題点が可視化されたことになる。そしてさらに対策面でも可視化を意識するのがベターだという。

問題行動の背後にあるもの

「問題のメンバーが、その会議ではどんな立ち位置でどんな発言や参加態度を求められているのかを可視化して伝え、実現できたかどうかについても毎回フィードバックして伝えることが求められます。

 そこまでやってはじめて、会議に絶対に遅れるわけにはいかない、むしろ早く到着して会議参加者とやり取りしながら場の空気づくりでもしておいたほうが良さそうだな、そうだアジェンダも自分で提案して、事前に参加者の中でも発言力がある人とすり合わせして会議進行の流れも事前にイメージしておこう……などと、自発的・主体的な参加態度が生まれる可能性が出てくるのです」

 問題発生要因を特定すれば、そもそもマネジメントの品質に問題があったことがわかっただけでなくメンバーの主体性を引き出すことにも成功した――実際にそんなことがコンサルティングを担当した企業でもあったという。

「遅刻の話は、あくまでたとえ話ですので、『そもそも寝坊は論外だろ!』というツッコミは脇においてくださいね(笑)。ただ、寝坊に限らず、問題行動をルーズさやだらしなさの表れと片付けるのではなく、原因を可視化することで、これまで見えていなかった問題点や視点が現れてくることも少なくないと思いますよ」

菊池明光(きくち・あきみつ)
1978年埼玉県生まれ。早大政経学部を卒業後、(株)リクルートに入社。13年間の勤務ののち退社、ベンチャー2社を経て、2016年に(株)可視化を創業。超有名企業から中小企業まで「営業ノウハウ可視化」のコンサルティングを行ってきた。『とにかく可視化 仕事と会社を変えるノウハウ』が初の著書となる。

デイリー新潮編集部

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