会社社長がお金持ちでも「不倫」をしてはいけない根本的な理由

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不倫で引責辞任のケースも

 芸能人から政治家、経営者まで、ほぼ毎週のように誰かの不倫が報じられるようになって久しい。イメージ商売という側面が強い芸能人の場合、違約金が求められることもある。政治家の場合、誰も道徳的モデルを期待していないとはいえ、公金で働いているだけに世間の目は厳しい。

 一方で、企業の経営者はどうだろうか。公的な存在ではあるものの、多くの企業トップらの知名度はさほど高くない。不倫そのものは民法上の不法行為ではあるが、犯罪にはならない。

 しかし現実にはバレた際には何らかのペナルティーを受けることは珍しくない。最近では、週刊新潮に取引先の中国人女性との不倫が報じられたウエルシアの社長が辞任に追い込まれている。この場合、単なる不倫というよりも、取引先であることも問題視されたとみられる。

 一方で、当事者さえ納得しているのならば、財力のある人物が複数の家庭を持つのは構わない、という考え方もある。ひと昔前にはそれを実践している経営者や政治家は決して珍しくなかった。

 現代の企業トップらはこの問題をどう捉えればいいのか。企業再建に携わった経験を持ち、『なぜこんな人が上司なのか』の著者でもある桃野泰徳さんに、リーダー論の観点から解説してもらった。

「取引先との不倫が認められづらいというのは分かりやすいですよね。そのまま不正につながるリスクがありますし、社内の誰も支持しないでしょう。

 そうではない場合、犯罪ではないので関係者が納得していたらいいじゃないか、という意見も理解はできます。ただ、リーダーは常に“見え方”を意識しなければならない存在だ、ということを理解していない方が多いように感じます。

 部下からの見え方、取引先からの見え方、顧客・消費者からの見え方……それらを意識できていないリーダーはことのほか多いのではないでしょうか。逆に言えば、そこをクリアしていれば、大目に見てもらえるケースだってあるかもしれませんよね。世間的にまったく知られていない企業のトップで、家庭はすでに完全に崩壊しており、事実上離婚しているのも同然だということを部下も知っているような場合であれば、“見え方”には影響しないでしょう。

 あるいは部下全員が感服、心酔するほどの存在の社長が、気の迷いでそういうことをした場合には、“あの人も人間だったんだな”と親しみを抱いてもらえるかもしれません。

 しかしまあ実際には、現代の社会でそういうケースはそう多くはないでしょう。やはり不倫をすれば“見え方”は悪くなるのが普通でしょうね」

“神”として振る舞え

 桃野氏はしばしばリーダー論を語る際に自衛隊を例に出す。著書の中では、企業の管理職研修が名ばかりのものなのに対して、自衛隊は1年間もかけて幹部候補生にリーダー像をたたきこんでいる、と指摘している。そのため自衛隊の幹部の心と体にはリーダーのあるべき姿が焼き付いているのだという。

「たとえば、私の尊敬する自衛隊幹部の方は、連隊長以上の階級は“神”と見られるよう意識しなければならない、と仰っていました。200人ほどを束ねる立場の中隊長までならば、“おやっさん”のような存在でもいい。しかし複数の中隊の上に立つ連隊長はそれではいけない、ということです。

 人によっては、いつまでも兄貴分のような感じで振る舞いたいと思うことでしょう。現場にフランクに接することができる自分が好きという人はいます。実のところ、中隊長までならそれでもいいのです。

 しかし、連隊長になったら自分自身の気持ちはさておいて、“神”を目指す必要があるのです。別に必要以上に威張るとか強面になる必要はないのですが、実際にほとんどの人はかなり“強面”で通すようです。結局はそれが部下のため、組織のためになるからです」

 しかし全員が強面になると、それはそれで効果がない気もするが――。

「もちろん、全員が同じやり方で“神”になるわけではなく、それぞれの方が持ち味を生かしながら、というのが前提です。印象では8~9割の方は強面路線を選ぶようですが、まったく別のタイプの方もいました。

 先ほど話に出した幹部の方は、普段はニコニコしていて、ここぞという時にだけ豹変して厳しさを見せるという感じでした。言うべき時は厳しく言う。

 結局、“見せ方”には絶対の正解があるわけではなく、何が自分に合っているのかを考える必要があるのです。ここをきちんと考えないで、“ありのままの自分”を見せようというのでは、リーダー失格です。

 自衛隊の幹部教育では、リーダーはこうすべきだ、と教えているというよりは、リーダーというものは何かの基本的な考え方を教えていると聞きました。定義を学んだうえで、やり方は自分で考えるというところでしょうか」

“見え方”“見せ方”を常に意識せよ

 企業の場合、トップになることイコール自由に振る舞えること、といった勘違いをするタイプも珍しくないという。地位が上がったことで、自由度が増したと考えてしまうのだ。

「本来は、“見え方”“見せ方”を常に意識できないのならばリーダーなんか目指すな、ということなんですよ。それが組織や部下の利益に直結するんですから。

 不倫に限らず、現在ならばSNSの発信でも同じことが言えます。つまり、その発信が部下、取引先、世間にどのように見えるのかを考えなければならない。計算なしに、思ったことを発信して炎上するなんて人は論外です。また、そうでなくても金持ち自慢のような写真を無邪気にアップするのもやめたほうがいいのではないでしょうか。私生活の充実をアピールしても仕方がない。俺すごい、って自慢をして本人は気持ちがいいかもしれませんが、陰では笑われていますよ」

 当然のことながら「社長、モテますね」なんて言われていい気になってはいけないのである。

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