森ビル14年目に突入する辻慎吾社長のワンマン体制 関係者は「社内は自由にモノが言える雰囲気ではない」

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地権者の批判

「レジデンスBはトラブル続きで、完成が遅れに遅れています。そのため施行を請け負っている三井住友建設は22年3月期に219億円、23年3月期に315億円、合計534億円の損失を計上し、2年連続の赤字決算を発表。責任を取って、メインバンクである三井住友銀行出身の近藤重敏社長と君島章児会長が退任するという事態に発展したのです」(同・記者)

 レジデンスBの工期が遅れているという点では、確かに森ビルは被害者だ。しかしながら、この高層ビルには地区の再開発に協力してくれた地権者が住む予定になっている。前編の記事では再開発組合の関係者が取材に応じ、森ビルを厳しく批判した。その部分を再掲しよう。

「そもそも麻布台ヒルズとなった土地は権利関係が複雑で、再開発には長い時間がかかりました。地権者を中心に『街づくり協議会』が作られたのは1989年に遡るのです。森ビルが時間をかけて合意形成を図ったことは評価できても、地権者の多くは高齢になってしまいました。『生きている間に早く入居したい』という声は増す一方です。森ビルは三井住友建設にレジデンスBの建設を委託した責任をどう考えているのかとは思いますね」

紙1枚だけの謝罪

 三井住友建設は5月、地権者を中心とする再開発組合に対し、完成予定は25年8月末になると説明。これに辻社長は5月27日、再開発組合に対して工事遅延を謝罪する文書を送った。しかしA4の紙1枚だけで、文章もどこか他人事の印象を与えるものだった。地権者からは「誠実な対応だとは思えない」という不満の声が出たのも当然だろう。

 森ビルの内情に詳しい関係者は「レジデンスBで建設が遅延している問題は、もし森稔さんが生きていたら、全く違った対応になったと思います」と言う。

「必ず組合の説明会に顔を出し、地権者の一人一人と直接、腹を割って話し合ったのは間違いないでしょう。森ビルが手がける再開発は、地権者の深い信頼を元に行うものです。開業時に地権者の皆さんが住む場所を準備できていないというのは森ビルにとってあり得ない事態で、社員全員が忸怩たる思いになって当然でしょう。しかし今の社長である辻さんには、そうした感覚が欠如しているかもしれません」

 森ビルも工事遅延で被害を受けているのは事実だ。たとえ辻社長が説明会に出席しても、地権者の批判が集中するという可能性は低い。それでも紙1枚の謝罪で済ませてしまうところが疑問視されているゆえんだろう。

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