年商4000万円のキクラゲ農家になった元ソフトバンク・中原大樹さんが語る、同年入団の柳田悠岐への感謝
同年入団の柳田がSNSで取り上げると…
販路の開拓についても、頭をフル回転させ、可能性のある方法はすべて試してみた。
まずはソフトバンク選手へのアプローチだ。最初の案は、選手にキクラゲを食べてもらい、できればSNSで感想を書いてもらうというもくろみ。これは岳父のアイデアだったが、中原さんは難色を示した。
「僕は辞めた身で、ずうずうしくお願いできるタイプでもないのでイヤやったんです。でも、自分にあるものといえば野球選手の人脈ぐらい。だから『ちょっと食べてみてください。SNSにあげてもあげなくてもどっちでもいいです』と書いて送りました」
ここで同年入団の柳田との縁が生きる。
「ギータ(柳田)さんがSNSで取り上げてくれて。その時は、8万件の“いいね”がついて、ネット通販でもかなり売れました」
さらに内川聖一、細川亨、中村晃、今宮健太、千賀らもSNSで後押ししてくれた。するとそれを見たテレビ局などからの取材が相次いだ。だが当時、キクラゲはハウスの片隅で細々と栽培する程度だった。
「それを悟られまいと、たくさん栽培しているように見えるレイアウトにして取材クルーを迎えたりしました」
ソフトバンクファンが多く来る居酒屋などにも売り込む一方で、野球とは離れた業界にも営業をかけた。
学校給食である。
“他社さんのがおいしければ二度と来ませんから”
21年前後は、中国産キクラゲの安全性が問われ、国産使用へシフトしていた。しかも福岡県では地産地消が推奨されており、県内生産者である中原さんも参入できるかもしれないと考え応札。すると見事指名を受けた。必要な14万食分のキクラゲを栽培できる業者が近場にいなかったのだ。
「生キクラゲ換算で月2トンを納入します。これをスライスして乾燥させてお届けするんですが、出荷する前の検品が大変でね。妻が中心になってパートさんにも手伝ってもらっても深夜までかかります」
給食への提供は経営上の大きな柱になった。ただ、夏や冬の、学校の休暇期間の穴をどう埋めるかが課題だ。そこでターゲットの一つにしたのがスーパー。アタックする際には、岳父の粘り強い営業力が効いた。通常はバイヤーと交渉するところ、岳父は社長に直談判を試みるのだ。何度断られても会えるまで電話した。
「味には自信があるもんだから“他社のキクラゲとうちのを食べ比べてください。他社さんのがおいしければ二度と来ませんから”というのがセールストークでね。うちの方がおいしいと分かって即納入が決まったことが結構ありましたね」
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