「野球選手が農業? なめやがって」と言われ… 元中日投手・三ツ間卓也がイチゴ農家になるまでの険し過ぎた道のり

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週4回の摘み取りの予約はいつも満員

 引退した野球選手の第二の人生は多種あれど、こちらはバットをスキとクワに持ち替えて「農家」への転身だ。しかし相手は思うに任せぬ大自然。金の工面も土地の手当てにも一苦労――。彼らの汗と涙の道のりをノンフィクション・ライターの西所正道氏がたどった。【全中後編の中編】

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 今年1月27日、イチゴの摘み取りができる「三ツ間農園」を横浜市内にオープンした、元中日投手の三ツ間卓也さん(31)。

 自身のインスタグラムのフォロワーは2万を超え、テレビや新聞などにもたびたび登場。週4回の摘み取りの予約はいつも満員だ。

「毎日開園したいんですが、土日に1日80人のお客様を入れたら、食べ頃のイチゴはなくなってしまうので、イチゴの生育に合わせて開園日を調整しています」

 5棟あるハウスにはイチゴの甘い香りが漂う。「紅ほっぺ」「おいCベリー」「やよいひめ」など比較的知られたイチゴの他に、白い「天使のいちご」や、桃の香りでピンクの「桃薫(とうくん)」という珍しい品種もそろえる。

 イチゴ農園の先輩たちは栽培の難しさから手を出さないが、赤、ピンク、白のイチゴを交ぜて植えたコーナーも。色のグラデーションを楽しめる“インスタ映え”を狙ったのだ。

 にこやかに園内を案内する姿を見る限り、これまでの道のりに紆余曲折があったとは思えない。だが、開園までには不測の事態に翻弄され、イチゴ農家を諦めそうになったことが何度かあったという。

プロ入りまでの苦労

 三ツ間さんは群馬県生まれ。今年のセンバツで初優勝した高崎健康福祉大学高崎高校に所属したが、ほぼずっと4番手投手。

「夢はプロ野球に進むことでした。プロは常に需要と供給なので、どうすればドラフトにかかるかをいつも考えていましたね」

 まず試合に出なければ話にならないと、強豪とはいえない高千穂大学に進学しエースに。サイドスローピッチャーは需要があるだろうと考えて投げ方をオーバースローから変えると、BCリーグ「武蔵ヒートベアーズ」から声がかかり入団、1年目でセーブ記録を塗り替えた。

 15年に育成ドラフト3位で中日入り。小笠原道大2軍監督の助言「球種を増やせ」を実行し、先発、中継ぎの両方で成績を残すと、翌年には1軍に昇格する。

 が、1軍の壁は厚かった。2年ほどは中継ぎで活躍するも、研究されるにつれて下降線をたどり、21年に引退。

「引退後のイメージとしては営業職とか安定した仕事かなと思っていたんです。でも妻が“イチゴ農家やってみたら”って」

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