「虎に翼」まさかの衝撃展開…胸を突かれた優三の言葉を振り返る「ありがとうね、トラちゃん」

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実は頼りになった優三

 2人の間の特別な空気に最も早く気付いたのは花岡悟(岩田剛典)だろう(第21回)。当時の花岡は寅子と一緒に明律大法学部に在学中。花岡は寅子に好意を抱いていた。

 直言が「共亜事件」で贈賄罪に問われたため、花岡は穂高重親教授(小林薫)を弁護人に担ぎ出した。畳に頭を擦りつけて礼を言う優三に対し、花岡は「お兄さん、頭を上げてください!」と声を掛けた。優三が「僕はただの書生です」と言うと、寅子が間髪入れずに「いいえ。優三さんは家族です」と強い口調で言い直した。このときの花岡は少し驚き、不安そうな目をした。恋敵の存在には敏感になるのだろう。

 胃腸が弱く、そのためか高等試験には受からなかった優三だが、共亜事件の際はめざましい活躍を見せた。

 検察側の猪爪家への家宅捜索時の立ち会いは堂々としていたが、それより大きいのは一家の支えになったこと。まず寅子の弟の直明(少年期・永瀬矢紘)を不安にさせまいとした(第20回)。

「お母さん、直明君を連れて奥へ」

 優三は直明と福笑いなどをして遊び、かわいがっていた(第25回)。天涯孤独だったせいもあるのだろう。

 釈放された直言が猪爪家の玄関先で崩れ落ち、家族に向かって土下座をしたときも優三は直明のことを真っ先に考えた(第21回)。

「お父さん、顔を上げてください。直明君も見ています」

 直言に直明が幻滅しないようにした。優三が恩人の直言に指図めいたことをしたのは、この一度きりだ。

 どちらの局面でも事が済むまで腹痛は起こらなかった。いざというときには頼りになる人だったのだ。

 第40話、出征前の優三と寅子が河原を散策した際、寅子は優三に土下座した。

「ごめんなさい。私のわがままで結婚させて。普通の結婚生活もできなくて。あと、高等試験をつづけるように後押ししなかったこと、ごめんなさい。あと……」

 優三は寅子が高等試験に受かるかあきらめるまで自分も高等試験を受け続けようと決めていたと告白していた。自分の人生を寅子にゆだねていたと自嘲気味に語った(第37回)。

 しかし、これは半分ウソだ。優三は寅子の伴走者になろうとしていたのだ。このときの寅子は未亡人に騙された件で自己嫌悪に陥っていたため、優三は自分もダメな人間であることを強調し、励ましたかったのである。

 第40話で土下座した寅子に対し、優三はやさしく声を掛けた。

「トラちゃんが僕にできることは、謝ることじゃないよ。トラちゃんが出来るのは、トラちゃんの好きに生きることです」「トラちゃんが後悔せず、心から人生をやり切ってくれること。それが僕の望みです」(同回)

 優三は帰れなかった。優三は出征前に猪爪家の面々もいる前で、「ありがとうね、トラちゃん」と言ったが、それは家族になってくれたこと、優未という新たな家族を産んでくれたことへの感謝だったのではないか。胸を突かれる言葉だった。

 近年の朝ドラには戦争の悲劇を厚く描かない作品が目立った。しかし、この作品は違う。テーマは「法の下の平等」を定めた憲法第14条だが、「恒久平和主義」を掲げた憲法前文も意識しているからだろう。

「虎に翼」が従来の朝ドラの殻を破った作品であることをあらためて感じさせる。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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