「虎に翼」まさかの衝撃展開…胸を突かれた優三の言葉を振り返る「ありがとうね、トラちゃん」

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優三、帰らず

 佐田優三(仲野大賀)は生きて帰れなかった。朝ドラことNHK連続テレビ小説「虎に翼」のヒロイン・佐田寅子(伊藤沙莉)の夫である。優三は計30回64シーンに登場し、観る側に愛された。優三の軌跡を辿る。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

 1946年秋、優三は戦後間もなく死んでいたことが分かる(第42回)。死亡告知書が寅子の住む猪爪家に届いていたが、それを父親の直言(岡部たかし)が約1年も隠していた。

 優三は寅子と41年(第35回)に結婚したが、43年(第40回)に優三は出征したので、結婚生活は僅か約3年だった。

「つい隠してしまった。今、トラが倒れたら、我が家がダメになると思って」(直言)

 もちろん寅子は怒ったものの、直言の言い草も分からないでもなかった。寅子は猪爪家の大黒柱。闇市で着物などを売り、生活費を稼いでくれている。兄・直道(上川周作)は戦死し、それによって義姉の花江(森田望智)は力を落としたままだ。

 寅子も優三の死を知ったら、悲嘆に暮れるのは目に見えていた。先に惚れたのは優三だが、寅子もまた彼を愛していたのだから。

 それは寅子の言動に表れていた。「おめでとうございます」と言われながら優三の召集令状を渡されると、表情はこわばり、体を硬直させた。裁縫が苦手なのに夜なべしてお守りをつくった。出征の時を迎えると、別れがたくて、「優三さーん!」と走って追い掛けた。その際の寅子の小さな姿と優三の虚ろな笑顔、2人とも泣かないために無理につくった変顔が悲しかった(第40回)。

 優三は限りなくやさしかった。出征直前、寅子と散策に出ると、義母・はる(石田ゆり子)が用意してくれたおにぎりを自分では口にしようとしなかった。

「全部、おあがり。優未にお乳をあげないといけないからね」(同回)

 戦況悪化時で自分も腹が減っていたはずだが、寅子と生まれたばかりの愛娘・優未に「全部」を与えようとした(同回)。

 そもそも優三は自分のことを考えたことがあるのだろうか。1939年だった第31回、高等試験(現司法試験)をあきらめると、大企業の「帝都銀行」から、直道が社長を務める発煙筒などの工場「登戸火工」に移った。直道の役に立ちたいと思ったからだろう(第31回)

 弁護士になった寅子が依頼人の未亡人に騙されてしまい、落ち込んでいると、登戸火工の近くの河原に寅子を連れ出し、一緒に鶏肉を食べながら、こう慰めた(第37回)。

「すべてが正しい人間はいないから」「みんな良い面と悪い面をもっていると思うんだ。だから法律がある」

「法律の本を出したかった」(同回)というのもうなずけた。法律をおぼえるにとどまらず、法の精神を考える人だった。胃腸が弱いため、高等試験には7回落ちたものの、苦労した分、人間というものもよく知っていた。

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