やっぱりウェブは「バカと暇人のもの」だった…日本一多忙なネット編集者が15年前に“本質”を見抜けたのはなぜか

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勝者総取り

 だが、我々のようなオッサン世代は「うわっ、海外の人とも文字で交流できる! 来てるね未来!」なんてことを1990年代中盤から2000年代前半に経験し、インターネットに過度な希望を抱いたのである。

 とはいっても、世の中の本質は“The winner takes it all”で意味としては「勝者総取り」である。いくらインターネットが使えたといっても、初期のユーザーが少ない時はさておき、誰もが使えるインフラになった後にインターネットがその人物を“Winner”にするほどの力はない。

 むしろ、余計なことを書いて誹謗中傷だと開示請求を申し立てられたり、損害賠償請求をされたり、非常識なバカ動画をバイト先で撮影してそれを投稿した結果、解雇されて賠償金を求められたりするのが関の山。

あなたが正しかったです

 フェイスブックでは著名人を騙った投資詐欺の広告を信じてカネをむしりとられ、闇バイト募集に応募した結果逮捕されて人生台無し……。こんな未来を私は『ウェブはバカと暇人のもの』で予想していたのだが、なぜそれが15年前にできたかといえば、以下が理由である。

 人間はバカな生き物。ツールが進化しようがバカはバカのまま。そして、射幸心やモテたい欲、金銭欲や性欲や自己顕示欲は「動物」としてツールの進化とは関係ない。インターネットはこれら欲求を制御するわけではなく、むしろ増幅する。

 こうしたことは「人間」を観察し続ければ2009年に分かっていたことなのである。日本は常に「臭いモノに蓋」をする国だが、あの時のネット界隈の私へのスルーっぷりは今でも異常だと思う。それでいて数年後「あなたが正しかったです!」とすり寄ってきた人間が多かったのには、人間というものの真実の一面を見た気がした。要は、ネットに夢を見ても儲からないから、現実路線であなたに仕事を発注したい、という人が当時は「目覚めた」のである。

 その意味であの本を15年前に書いて良かったと今、悠々自適人生を佐賀県唐津市で送る私はしみじみ実感する次第である。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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