野球に興味ナシのイギリスで「世界最高の打者」といえば? クリケットの名選手ヴィラット・コーリと大谷翔平の意外な共通点(小林信也)

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一人で100打点

 英連邦のスーパーヒーローであるコーリは、3歳の時、家にあった玩具のバットを手にして、クリケットに心を奪われた。父親にボールを投げるようせがんだという。

 月刊誌「クリケット・マンスリー」(2016年6月号)にコーリのインタビューが載っている。若くして代表に入り、ワールドカップでも活躍したコーリだが、本気で頂点を目指すきっかけは2011年に感じた挫折感だったという。

 初出場のワールドカップ初戦で、コーリは史上初めてデビュー戦での「センチュリー」を達成した。1試合に一人で100打点を記録する偉業だ。インドはそのW杯で優勝を飾ったが、コーリは準決勝のパキスタン戦でわずか9得点、決勝のスリランカ戦でも35得点しか奪えなかった。

「その年が大きな転換点だった。そして、ひらめきがあったんだ」とコーリは語る。

「優れたチームや選手はみな決められたルーティーンと規律を守っている。それがゲームに役立ち、自信を与えてくれる。私はそれまで、守備も打撃も一生懸命練習していたけれど、食事や自己規律の部分は含まれていなかった。ある日鏡を見て、自分に言い聞かせたんだ。平凡な選手でいいのか、世界最高の選手になりたいのか。優れた選手は、多くの選手がやらないことをしているに違いない」

 その日から、部屋を奇麗に片付け、食事をちゃんと食べるなど、生活面の改善に意識的な努力をした。

「その結果、8カ月後に体重が11キロも減った」

 それがコーリの覚醒につながった。クリケットと野球を代表する英雄、コーリと大谷、競技に向かう姿勢は通じている。

小林信也(こばやしのぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2024年5月23日号掲載

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