野球に興味ナシのイギリスで「世界最高の打者」といえば? クリケットの名選手ヴィラット・コーリと大谷翔平の意外な共通点(小林信也)
この地球上には、いまも野球に興味がなく、その起源ともいわれる、イギリス発祥のクリケットに熱狂する国々が存在する。それをほとんどの日本人は知らない。
だが、2028年のロス大会で128年ぶりの五輪復帰が決まった。日本でもまもなく認知が高まるだろう。
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「世界最高の打者は誰か?」と問われたら、日本人の大半が「大谷翔平」と答えるだろう。しかし、野球に関心を示さない“もうひとつの世界”では、誰もが「ヴィラット・コーリ」と答えるらしいのだ。
コーリは1988年、インド・デリー生まれのプロ・クリケット選手。元インド代表主将。16世紀に生まれたクリケットの歴史上、「最高の打者のひとり」と称される。年俸は約30億円、インスタグラムのフォロワー数がアジア人として初めて2億5千万を超えた。それほどコーリの人気は絶大。その数字は、イギリスやインドなど英連邦の国々を中心に、クリケットのファンの注目が日本における野球と同じか、それ以上に熱いことを物語っている。
4月初め、日本では「大谷翔平がクリケットのバットで打撃練習をし、調子を上げるきっかけをつかんだ」と報道された。日本人にとっては、大谷が手にした練習用の道具。そのクリケット・バットで30億円を稼ぐ選手がいる。英雄の妻はインド映画界の有名女優。まさに、絵に描いたような国民的カップルなのだ。
1試合最長5日間
コーリがどんな選手で、どんな活躍でファンを熱狂させているのか、それを伝えるのは難しい。なぜなら、クリケットという競技が容易には理解できないから。
できるだけ簡単に説明すると、クリケットにも投手(ボウラー)がいて、打者(バッツマン)がいる。投手は必ず、打者のすぐ前でワンバウンドするボールを投げる。それを打者は360度、どの方向に打ち返してもいい。遠くに飛ばすことだけが目的ではない。一番重要なのは、投手と打者それぞれの後方に立っているウィケットと呼ばれる3本の棒を守ることにある。打者は投手にその棒を倒されないために打つのだ。
打ったら投手後方にあるウィケットに向かって走る。それと同時に、攻撃側の走者が逆方向から走ってきて、二人ともウィケットのあるゾーンにタッチできたら1点になる。返球が遅れていれば何度でも往復して得点を重ねることができる。その間に相手守備陣の返球が攻撃側のウィケットを倒せばアウトになる。
野球で言えば、本塁と二塁を往復するようなイメージ。一塁送球でなく、本塁側のウィケットにボールをぶつけて倒せばアウトが取れる。草野球のような楽しさも感じる。
攻撃側は10個のアウトを取られるまで打ち続ける。3アウトでなく、10アウトチェンジというわけだ。
国別対抗戦などは「テスト・クリケット」と呼ばれる伝統的な形式で行われる。野球のように9イニングでなく2イニング制。それでも1試合が終わるまでには最長5日間もかかるという。のどかで優雅な、イギリス貴族の趣きを感じさせる。試合中にティータイムがあるのも、勝負に執着するだけでなく、互いの交流を重視する貴族社会の価値観を反映しているのだろう。
最近は1イニング制の「ワンデイ・インターナショナル」や、オリンピックで実施される予定の「トゥエンティー20」という短時間型の試合形式も普及しているという。
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