超リアル再現映画のメガヒットで再注目 香港の有名スラム街「九龍城寨」はどんな場所だったのか

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 90年代初頭、香港の空港がまだ町中にあった頃、着陸する飛行機から異様な一角が見えた。「積み木でも無理」と思うほど密集したビルはすべて薄汚れ、屋上にはおびただしい数のアンテナが森のように生えている。厳しすぎる住環境が一目でわかるその一角は、日本で「九龍城」または「九龍城砦」、地元で「九龍城寨」と呼ばれる大型スラム街だ。

 日本を含む海外で絶大なカルト人気を誇ったこのスラム街が、今また香港で大注目されている。きっかけは5月1日に香港と中国大陸で公開されたアクション大作「九龍城寨之圍城」(邦題:トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦、日本公開:2025年1月17日)だ。初日の興行収入は500万香港ドル(約1億円)と、過去の香港映画で歴代2位を記録。その後もリピーターが続出し、21日には興行収入7000万香港ドル(約14億円)突破が発表された。

 10年以上前に出版された小説とその漫画化作品をもとにしているため、実写映画化の大成功例でもある。ただし、映画版でキャラクターたちと並ぶ存在感を放つのが、総製作費の6分1にあたる5000万香港ドルをかけた九龍城寨のセットだ。その圧倒的な再現度からは、九龍城寨に対する香港の並々ならぬ“愛情”を感じる。折しも今年は九龍城寨の“完全消滅”から30周年。それでも衰えない人気の理由を探るべく、まずはかつての姿を知る香港人に話を聞いた。(全2回の第1回)

映画館には「記念来場」の観客も

 九龍城寨の取り壊しが発表されたのは、香港返還が確定した1984年の英中共同宣言から3年後。実際の工事は93年から94年にかけて行われ、現在の跡地には緑豊かな公園と九龍城寨をしのぶ無料の博物館がある。普段はさほど混みあわないが、「九龍城寨之圍城」の公開から5日後に訪れた際は意外なまでに人の姿があった。

 博物館では九龍城寨の歴史が簡単に紹介されているが、宋朝にまでさかのぼるその詳細は非常に長くて深い。スラム街として“頭角を現す”のは、香港政庁(英国)と中華民国、中国のいずれも手出しができなくなった50年代から。『九龍城寨の歴史』(みすず書房)は60年代を含めた20年間を「暗黒の時代」としている。70年代にはわずかながら改善され、80年代には警察の巡回が行われるようになった。

 公園のすぐ近くにある映画館には「九龍城寨之圍城」の巨大看板が設置され、記念来場と思われる香港人が次々と記念撮影にいそしんでいる。やがて上映が始まった満席の場内はあっという間に「あの頃の香港」へ引き込まれていった。描かれている年代は「暗黒の時代」が終わり、ベトナムから難民が流入していた80年代初頭だ。

 主人公はレイモンド・ラムが演じる中国系ベトナム難民の陳洛軍。香港に居場所を求めた彼は、偽造身分証の売買で自身を騙したマフィア(サモ・ハン・キンポー)から金が入っているはずの袋を奪い、九龍城寨に逃げ込む。救いの手を差し伸べたのはもう1人の主人公、「暗黒の時代」に抗争を制して九龍城寨のボスとなった男・龍捲風(ルイス・クー)。そして、陳洛軍がただの逃亡者ではない事実と九龍城寨の取り壊しを見越した利権をめぐって、激しい戦いが幕を開ける。

 監督は「リンボ」「モーターウェイ」などのソイ・チェン、アクション監督は日本の谷垣健治。リッチー・レンやアーロン・クォックといったベテランからテレンス・ラウ、トニー・ウーらの新世代まで、主要出演者たちが豪快アクションを披露する。人の絆を軸にしたストーリーはさほど複雑ではないものの、フラグを丁寧に回収していくため鑑賞後のカタルシスは大きい。ご都合展開をむしろ「そうこなくては」と思わせる構成は巧みだ。

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