「ワンオクがどこにも見えない!」 大規模ライヴ「見切れ」問題の解決策を考える
ミック・ジャガーは偉い
では、どうすればいいのか――。解決策の1つは、少しでも見えるような工夫をすることだろう。
もっともシンプルなやり方は、アーティストが動き続けることだ。ローリング・ストーンズのヴォーカリスト、ミック・ジャガーは全米ツアー中だが、80歳の今もスタジアムのだだっ広いステージを上手から下手まで使って歌っている。
ツアーによってはセンターステージをもうけ、360度にアピールする。そのために日ごろからランニングを行っているらしい。これならば真横に近い席でも、時々は彼の姿を見ることができる。高齢のミックがわざわざやって来てくれるのを見て、満足しないはずがない。
ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで、ブルース・スプリングスティーンのライヴをステージ背後のスタンドから観たことがある。そこしかチケットが手に入らなかった。当然、開演中ずっと本人やバンドの背中を見ることになった。ただしサービス精神旺盛なスプリングスティーンは、頻繁に後ろを振り向いて歌い、こぶしも振ってアピールしてくれた。嬉しかった。
ステージの作りその他、何らかの理由で動きまわれない場合には、ステージ横のお客さんのためにモニター画面を設置するというやり方を取っているケースもある。これならばステージ上で何が起きているかはわかるので、ライヴに参加した気持ちは持てる。
このくらいの配慮があるだけでも満足度はかなり変わるかもしれない。
価格の細分化を
2つ目の解決策は、席の価格に段階をもうけることだろう。先ほどのマライア・キャリーの例を見てもわかるように、日本の場合、ロックやJ-POPでは長年、価格の格差が小さかった。会場の全席同価格というケースもあったくらいだ(クラシックは昔からS席、A席、B席、学生席など複数の席種を設けている)。同じS席でもかなりの差があるのも珍しくなかった。
しかし最近は、ステージに近くに高価格のVIP席やSS席を設けたり、ステージから遠い低価格の席を一定数作ったりしている。高価格の席のお客さんにはお土産やバックヤードに入れる権利が付いていることもあるようだ。ステージ上の特別席を販売するケースもある。
アメリカやヨーロッパの会場ではかなり前から、クラシック・コンサートのようによりきめ細かく複数の席種を設けている。いい席は価格が高い。ステージから遠い席は安い。スプリングスティーンのステージ背後の席も正面よりもずっと安かった。
最近は1席、2席単位で異なるのではないかというくらい、全エリアで価格が違うことも多い。コロナ前の2019年にマディソン・スクエア・ガーデンでイギリスのバンド、ザ・フーを観たが、実に細かく料金設定されていた。どうやって値段を決めているのかは知らないが、ざっと見たところ、適正だという印象を受けた。
ネットの画面上で、自分の好きなエリア、払える金額を考慮して席を選ぶ。ザ・フーのときは残席わずかで、巨大なマディソンの天井近くの席しかなかった。現在のような深刻な円安ではなかったこともあり、日本円に換算すると1万円以下で観られた。一方でアリーナのステージ近くは10万円以上だった。
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