詐欺で逮捕の元宝塚トップスター(78)は「東京佐川急便事件」にも登場…1億3000万円の資金提供を受けていた

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「持って帰りなさい」

《「ああ、そんなこと。苦しくても歌を捨てちゃいけません。東京に渡辺という男がいる。明朝一番に電話をしておくから、彼のところに行きなさい」/一昨年(九〇年)の九月六日のことでした。》

――渡辺とは東京佐川急便の渡辺広康社長のことだった。翌7日、彼女は早速、東京佐川急便を訪ねた。

《渡辺社長のお話も想像を絶するようなことばかりでした。/「あなたはやって来るのが遅いよ。歌手も俳優も、芸能人はみんな来ている。あなたと同じ宝塚の人も大勢来ていますよ」(中略)「会長直々のお声がかりだから、大さんは特別扱い。お金の方は用意しておくから、明日またいらっしゃい」》

――さらに翌日、再び東京佐川を訪ねると2つの手提げ袋が用意されていたという。

《「これ、一億三千万円あるから。持って帰りなさい」/えーっ! 仰天しました。二重に重ねた手提げ袋の中には一万円の束がぎっしりと収められていたのです。》

 ろくに知りもしない相手に、1億3000万円をポンと出す……。もちろん、こんな経営が長続きするわけがない。92年2月、渡辺社長らは東京佐川急便に952億円の損害を与えたとして、東京地検特捜部に特別背任容疑で逮捕された。事件は国会でも取り上げられた。92年2月19日の衆議院予算委員会では、社会党の和田静夫議員がこんな質問をしていた。

田中角栄に1億円

和田:田中角栄元総理を支援する政治団体である政経調査会が、1985年に佐川急便から約1億円の寄附を受けられた。普通なら政治資金規正法の規定に基づいて報告をしなきゃならないのでありますが、この1億円を佐川急便グループ100社に分けて、1社100万円ずつ100社からの寄附にした。これなら届け出る必要はない。/しかし、国民から見れば、田中角栄氏の政治団体が1億円もらったことは見えないことになるわけであります。国民の常識、国民感情から見て、このような法規制の現状が妥当なのかどうか。

 なにやら政治資金規正法の改正案で揉めている今の自民党とよく似た話だ。和田議員は佐川の金の流れにも言及する。

和田:猪木参議院議員が代表する新日本プロレスリングに9億、アントン牧場に12億、古葉竹識さんが代表のテイクワンに35億(中略)など合計1454億円。これも恐らくもう警察庁、国税庁は把握をしていると私は思うのでありますが……。

 そしてこの年8月には、竹下派(経世会/現・平成研究会)会長で自民党副総裁の金丸信氏が佐川から5億円の闇献金を受けていたことが発覚し、政局となっていく。ちなみに、金丸氏は政治資金収支報告書への記載漏れを認め、東京地検特捜部は政治資金規正法の量的制限違反として罰金20万円の略式起訴。刑の軽さに世論の怒りは沸騰し、特捜部が入る九段第1合同庁舎の「検察庁」の表札に黄色のペンキが投げつけられたのを覚えている方もいるだろう。

 その東京佐川急便事件の一環で、同社からお金を受け取っていた芸能人やスポーツ選手らが明かされていった。そしてタニマチ社長のいなくなった東京佐川急便は、失った1億3000万円を取り戻そうと大を訴えたのだ。ではなぜ、彼女だけが訴えられたのか。それを「女性セブン」(92年12月10日号)が報じている。

《大によれば、「税金対策のため」といわれて、借用書を書いたが、それが今回の判決の証拠となったわけで、「黙ってもらっておけば、こんなことにならなかったのに……」と悔やむことしきり。》

「ごっつぁんです!」ともらっておけば、請求されなかったのだ。そして「アサヒ芸能」(92年12月3日号)はこうまとめた。

《判決の1週間前には“敗訴”を予期してか、東京・成城の豪華マンションを引き払ったという元ヅカガールだが、彼女にとってこの年の瀬は何とも暗く厳しいものになるに違いない――。》

 あれから30余年を経て小倉容疑者は逮捕された。詐取した1000万円については「成城の土地を売ってお返しします」と話していたとも報じられている。だが、東京佐川急便事件の時にはすでに売り払っていたようだ。騙し取った金は生活費や活動費に充てたとみられ、彼女は「お金は返すつもりだった」と供述しているという。

デイリー新潮編集部

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