肩こり、花粉症が改善! 知られざる「鼻うがい」の効果とは…「喉うがいよりも効果的」
上咽頭を治療すると肩こりや花粉症が改善
ところが30年ほど前、私たちが考案した「扁摘(へんてき)パルス」という治療法がIgA腎症に有効であることが分かり、今では早期発見してこの治療を行うことでほとんどが治るようになりました。IgA腎症は「不治の病」ではなくなったのです。
ただ、画期的な治療法だった扁摘パルスでもすべての患者さんを根治できたわけではありませんでした。多くの患者さんの治療を続ける中で、どうしても血尿が消えない患者さんが20%ほどいたのです。そして、その原因を探している中で見つけたのが「慢性上咽頭炎」という概念でした。
慢性上咽頭炎とは、鼻の奥、のどちんこの裏側にある「上咽頭」が炎症を起こしている状態。この、上咽頭に起こっている炎症を治療すると、しつこく続いていた血尿が消えたり、大量のタンパクが尿に漏れ出してむくみが生じる腎臓病「ネフローゼ症候群」の再発が起こりにくくなったりと、手応えのある効果が次々と得られたのです。
さらに不思議だったのは、多くの患者さんから、「肩こりがなくなった」「頭痛が消えた」「花粉症が治った」と驚きの声が上がるようになったことでした。患者さんたちに肩こりや頭痛の治療を行ったわけでも、特別な薬を処方したわけでもないのにです。私は、世間でも、医療の世界でも、ほとんど注目されていなかった上咽頭が極めて重要な働きをしているのだと信じて疑わなくなりました。
少し専門的になりますが、この「慢性上咽頭炎」と「IgA腎症」のように、ある部位の不調が他の部位に飛び火することを「病巣感染」と呼びます。慢性上咽頭炎は腎臓だけでなく全身に遠隔操作のようにさまざまな不調を引き起こす「病巣」、つまり「万病の元」だったわけです。
「天然の空気清浄機」
そして、鼻うがいで鼻の中を丸洗いすることにより洗い流すことができるのが、この「上咽頭」の汚れ。鼻うがいでは、鼻の奥のムズムズを解消したり風邪予防ができたりするだけでなく、上咽頭が鍛えられ、全身の不調を予防・改善できる可能性があるのです。
では、どうして鼻の奥にある上咽頭が全身の不調を引き起こしてしまうのでしょうか。これには、上咽頭がまるで「天然の空気清浄機」であるかのように、抗原や病原体が体内に侵入するのを食い止める役割を果たしていることが大きく関係しています。
ここからは上咽頭の働きについて簡単にご説明しましょう。
先ほどもお話しした通り、上咽頭は鼻の奥、のどちんこの裏側に位置します。左右の鼻の穴(鼻孔〈びこう〉)から入った空気は、上咽頭で一つに合流し、加湿・加温されながら、中咽頭、下咽頭、気管、気管支を経て肺に入ります。つまり、上咽頭とは、鼻を通過して体の中に取り込まれた空気が最初に通る場所。その表面は絶えず粘液が分泌されている繊毛上皮細胞で覆われていて、埃(ほこり)や細菌など外からの異物を押し流し、痰として排出する働きもしています。
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