「こんな連中の仕事はAIに取って代わられる」と冷笑する人間の愚かさ その極端過ぎる分析こそ“取って代わられる”(中川淳一郎)

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 最近、無能な(と自分が考える)勤労者に対して「こんな連中の仕事はAIに取って代わられる」となにかと冷笑するブームがあります。それは実際の職場や店舗でもそうですし、SNSの世界でもそう。

 気の利かない店員、資料作りにやたらと時間がかかる社員などが対象ですが、AIを持ち出して生身の人間の悪口を言う風潮って私はイヤだな。新しいテクノロジーができて、それによって仕事を失う人が出ても、その人は別の何かをやる人生を獲得できたと思うんですよね。

 もっとも分かりやすいのが飛脚です。鉄道ができ、自動車が普及したら飛脚という仕事はなくなりましたが、その人はもしかしたら体力を生かして赤帽や歩荷(ぼっか)になったかもしれない。あとは電報の配達人もそう。「サザエさん」を読むと深夜に電報が届くというシーンが時々ありました。彼も電報が廃れたらその仕事は失うわけですが、電電公社(現・NTT)で電話関連の部署に異動するだけで済んだことでしょう。

 他人を冷笑する人は話が極端なんですよね。「自動運転が完全実現したら運転手の仕事なんていらなくなる」ってなことも言う。でも、2024年問題はあるし、今やコンビニやファストフード店は人手不足で時給1200円の店も多い。ニセコの牛丼チェーンの時給が2000円です。

 そもそも、2024年3月、完全失業率は2.6%です。2021年の平均は2.8%、2022年と2023年は2.6%。その間AIは劇的に進化しましたが、失業率は悪化していない。と考えると、彼らは「危機をあおって他人をバカにするのが楽しい。それでいて自分は先を読める賢者であると見せたい」というプレイをしているだけなんじゃないか。

 新しいモノが好きな人って時に困った存在になることがあります。2010年ごろ、「もうPCはいらない。スマホがあればすべてが手元で完結する」という論がありました。そのうえで、当時の大学生がPCを使えず、猛烈なスピードのフリック入力で卒論まで書いてしまう、新時代の到来ダーッ!と興奮するおじさんが時々いました。

 まぁ、そりゃ、スマホって小型パソコンみたいなものだからそういった側面はあるでしょうが、「PCはもういらない」って極端過ぎる。そして今、スマホの普及率が97%台となっていますが、彼らは今度はこう言い出した。

「近い将来、スマホもいらなくなる。メガネにすべてが搭載され、スマホができることをメガネがやるようになる」

 別にこの人たちは最新テクノロジーの開発者ってわけではなく、単に新しいモノが好きで、新テクノロジーの登場に興奮しているだけ。それはその人の趣味で、はいはい、楽しそうですね、でいいのですが、いちいち旧来型のテクノロジーや人材をくさすところまでがセットになる。

 この手の人は2000年代から言いっ放しで「○○の時代は終わった」だの「これから自分だけの価値を提供できない人はAIにすべて取って代わられる」って危機感ばかりあおる。貴殿のその手の分析だって容易にAIに取って代わられるでしょうよ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2024年5月23日号掲載

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