【全米プロゴルフ選手権】世界ランク1位の選手が直前に逮捕… シャウフェレ初優勝で「いい大会だった」

スポーツ

  • ブックマーク

先週のツアーでは逆転され優勝を逃す

 そんな仰天のドタバタ劇に翻弄された全米プロだったが、決勝2日間、とりわけ最終日は、純粋なゴルフの熱戦がファンの視線を釘付けにした。

 サンデー・アフタヌーンを首位タイで迎えたのは、30歳のザンダー・シャウフェレと27歳のコリン・モリカワという2人の米国人選手だった。だが、なかなかスコアを伸ばせず停滞していたモリカワに代わって、米国出身で30歳のリブゴルフ選手、ブライソン・デシャンボーがスコアを7つ伸ばし、シャウフェレに並ぶ通算20アンダーで先にホールアウトした。

 その数十分後に最終ホールの18番(パー5)にやってきたシャウフェレは、「バーディーなら優勝、パーならデシャンボーとのプレーオフ」という状況下、1メートル半のバーディーパットをしっかり沈めて悲願のメジャー初優勝を達成した。

 ドイツとフランスの血が流れる父親(ステファン)と日本育ちの台湾人の母親(ピンウエイ)を両親に持つシャウフェレは、カリフォルニア州サンディエゴ郊外で生まれ育ち、サンディエゴ州立大学を経て2015年にプロ転向。PGAツアーにデビュー後、17年にシーズン最終戦のツアー選手権を制し、そのとき初めて全米レベル、いや世界レベルの注目を浴びた。

 以後、着々と勝利を重ねて通算7勝を挙げ、2020年東京五輪では金メダルを獲得。しかし、メジャー4大会ではトップ10に12回も食い込んだというのに惜敗ばかりを喫し、悔しさを噛み締め続けてきた。

 先週もPGAツアーのウエルスファーゴ選手権で最終日の7番まで首位を走りながら、ゾーンに入った状態のロリー・マキロイに大逆転されて勝利を奪われたばかりだった。

粘りのゴルフで優勝

 最後に勝利したのは2022年7月のジェネシス・スコティッシュ・オープン。あれから2年以上も優勝から遠ざかっていたシャウフェレだが、それでも世界ランキング3位で今大会を迎えたところに彼の底力と惜敗の多さがはっきりと見て取れた。

「シャウフェレは勝てそうで勝てない」
「シャウフェレはツメが甘い」
「シャウフェレはメジャー・チャンピオンにはなれない」

 そんな屈辱的なフレーズを自ら払拭すべく、今大会のシャウフェレは決して諦めず、決して揺るがず、粘りのゴルフを披露していた。最終日は10番でボギーを喫した直後に11番、12番で連続バーディーを奪い、ネバーギブアップを地で行くゴルフをしていた。

 そしてプレッシャーがかかる最終ホールで1メートル半のバーディーパットを見事に沈め、とうとう悲願のメジャー初優勝を成し遂げた。

「とてもいい気分だ。とても甘美な味わいだ」

 かつて一時期だけタイガー・ウッズのスイングコーチを務めたクリス・コモの指導を今年から受け始め、新たな道を進んでいる。

 幼少時代から常にシャウフェレに同行していた両親の姿は今年のバルハラGCには見られず、ウイニングパットを沈めた彼を出迎えたのは、21年に結婚した愛妻マヤと友人たちだった。

 プロ転向から9年、長い歳月が流れる中で、さまざまなことが変化していった。その流れの中で、自分ができることに最大限取り組んできたシャウフェレがようやく掴み取った初めてのメジャー・タイトルは、大会史上11人目の完全優勝というビッグなオマケ付きとなった。

 そしてPGAツアー選手のシャウフェレとリブゴルフ選手のデシャンボーが最後まで競り合い、惜敗したデシャンボーが潔くシャウフェレを讃えたグッドルーザーぶりも味わうことができた今年の全米プロは、いい大会だった。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。