「海外のカジノ業者の利益になるだけ」 世界的建築家・山本理顕が明かした「大阪万博批判発言」の真意 「安藤忠雄さんは逃げてはいけない」

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「安藤さんは責任から逃げてはいけない」

 この提案が藤本さんのプロデューサー就任と一緒に突然、降って湧いたように出てきたわけですから、それまで「非中心・離散」で進めてきた関係者はかなり混乱したと思います。

 アドバイザーである安藤さんの責任は、万博のために働いている建築家やデザイナー、さまざまな専門家たちが、その技量を十分に発揮できる環境を整えることではないでしょうか。それが今や、逆に彼等や万博協会の信用をおとしめるようなことになっています。安藤さん自らの説明がないからです。安藤さんはその責任を感じるべきだと思いますが、今や全く公の場に現れません。安藤さんに言いたいことは、その責任から逃げてはいけないということです。

 また安藤さんは、このような国家的プロジェクトに関わったのですから、万博そのものだけではなく、それを巡る現在の状況にも厳しく目配りすべきです。能登では大きな災害が起きました。まだ復興の見通しが全く立っていません。万博協会としても、何らかの支援を打ち出すべきです。そうした提言をすべきです。安藤さんこそが中心になるべきです。

海外のカジノ業者の利益に

〈最後に山本氏の憂慮は、大阪府・市が誘致を進めたカジノを含む統合型リゾート(IR)を前提に、万博の計画が進行してきたことにも及ぶ。〉

 藤本さんと直接会った際、大阪に住む人々の生活に無関心だなという印象を持ち、不安に感じました。

 万博の会場は、大阪市民が生活する街から遠く離れた場所、大阪湾のゴミ処分場の跡地です。そこに会場を造ると決めた政策自体に問題があります。

 大阪の都市計画、未来へのビジョンがないまま、短期的な金銭的利益のために万博を利用するのは間違っている。万博用地の後利用として、IRを計画した方が合理的だと考える人もいるかもしれませんが、そこで生まれた利益は、本当に大阪市民へ還元されるのでしょうか。ほとんど海外のカジノ業者の利益になるだけではないでしょうか。

 IR計画は地元経済のカジノ依存を生み、むしろ周辺の産業基盤をゆがんだものにします。さらに言えば、そうしたギャンブル事業による収入を、大阪府・市の財政に恒常的に組み込むこと自体が問題です。ギャンブルを運営する業者が失敗しないために、その利益を安定させる政策にならざるを得ないからです。

 万博は現在のみならず未来の住人に対して夢を与えるために開催されます。「夢洲/万博/IR」が、地元自治体トップである大阪府の吉村洋文知事らの夢だとしたら、それは大阪の人たちに共有されているのでしょうか。未来の住人であるはずの子どもたちに、きちんと伝えられる夢なのだろうか。甚だ疑問です。

山本理顕(やまもとりけん)
建築家。1945年生まれ。横浜国立大学大学院教授(2007-11年)、名古屋造形大学学長(2018-22年)。主な作品に埼玉県立大学、公立はこだて未来大学、横須賀美術館、The CIRCLE-チューリッヒ国際空港、名古屋造形大学、台湾桃園市美術館。主な著書に『地域社会圏主義』『権力の空間/空間の権力』。第57回日本芸術院賞、2024年プリツカー賞。

週刊新潮 2024年5月16日号掲載

特集「『大阪万博』危機の深層 世界的建築家『山本理顕』が問う 『ずさんな実態』」より

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