「海外のカジノ業者の利益になるだけ」 世界的建築家・山本理顕が明かした「大阪万博批判発言」の真意 「安藤忠雄さんは逃げてはいけない」
今ではほとんど使われていない伝統的な構法
実は「木造リング」の構造計算及び積算業務は極めて難しい作業です。それは設計と施工が一体となってしまった体制だけが原因ではなく、今回の「木造リング」には「貫(ぬき)構造」と呼ばれる日本の伝統的な構法を模したものが採用されているからです。
「貫構造」とはくぎやボルトや金物を一切使わず、柱と梁の接合部をくさびによって固めるだけで、木造構築物を支える工法です。今ではほとんど使われていません。その耐震性に必ずしも信頼がおけないからです。
最近では、SALHAUSという建築設計事務所と、東大准教授で構造家の佐藤淳さんらの協働で、岩手県大船渡市に「貫構造」の消防署建築を完成させています。何度も実験を繰り返し、ようやく信頼のおける構造システムをつくり上げました。伝統的な建物は別として、これまで純粋に「貫構造」で造られた建築は大船渡の消防署以外、私の知る限りありません。「貫構造」は建築基準法上認められた構造システムではないのです。
ゆえに、周長2キロという長いリング状の木造構築物を「貫構造」で造るというのは、構造計算だけでかなりの難題です。地震の時には軟弱地盤と共に全体が波のようにうねるでしょうから、それに耐える構築物の設計は難関なのです。
結局のところ、実施設計と工事を請け負ったゼネコン3社は、「貫構造」でつくることを諦めて、金物で補強する手段を選びました。賢明な判断だったと思われます。本来の「貫構造」だけにこだわっていたら、とても工期には間に合わないし、工事費はもっと増えていたと思われます。
あまりにも無謀だ
こうした専門知識のないままに、大阪府知事や大阪市長は「貫構造」で造るかのような解説をしていましたが、本来はプロデューサーである藤本さん自身が正確な説明をしなくてはならない。
それなのに、彼には説明責任者としての自覚が全くない。そもそも自分がなぜプロデューサーに指名されたか分からないというのです。それは藤本さんから直接聞きました。
〈4月11日、都内で開かれたゲンロンカフェ主催の公開シンポジウム「万博と建築」で、山本氏と藤本氏は対面している。そこで山本氏は、ここまで述べてきた数々の疑問を当人にも問うているが、とても納得のいく答えは得られなかったという。
そして山本氏が改めて不可解だと感じたのは、なぜ藤本氏が万博に携わることになったのか。そこにこそ、この問題の本質があるのではないかということである。〉
藤本さん自身、自分がなぜプロデューサーに選ばれたのか、誰によって選ばれたのか。その理由も根拠も知らされず就任を引き受けたと知って、あまりにも無謀だと感じました。
実際、3月8日に藤本さんはXで、およそ以下のように述べています。
〈2020年の初頭から春までの間に2度、万博協会と面談。2020年4月か5月あたりにプロデューサー打診、就任。プロデューサーの選定のコンペなどなかった。選定方法については僕は存じ上げないが、協会内で十分な議論があったと聞いている〉
藤本さんと万博協会は、どんな契約を交わしたのだろう。プロデューサーの責任範囲が契約書には書かれているはずです。彼はその責任を負えると判断したのだろうか。今からでも遅くないのでその契約書を弁護士に見てもらった方がいい。
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