もはや「芸能事務所」はオワコンなのか? “倒産急増”のウラにあった「コロナ」と「コンプラ」の二重苦とは
芸能事務所が“円満退社”を強調したい理由
Job総研が23年10月に、20~50代の社会人男女を対象に実施した調査では、実に76.4%が“テレビ離れを感じる”と回答。また、テレビの1日当たりの視聴時間についての質問では、「ほとんど観ていない」が30.1%で最多となった。
「そうなると、テレビに軸足を置く旧来型の芸能プロのビジネスは行き詰まってしまうわけです。つまり、テレビでタレントを売り出して知名度を上げ、番組やCMへの出演料や、イベント収入で稼ぐというやり方が成立しづらくなってきた。テレビに出演するよりYouTuberやインフルエンサーの方が稼げるとなれば、タレント側も事務所の力を頼らずに個人での活動を選ぶようになる。それに、大手の動画サブスク企業が制作するオリジナルドラマも増え、事務所が強引に売り込まなくても実力のある人が活躍できる環境になってきた。ここ数年は若いタレントだけでなく、実力派俳優の独立も相次いでいますよね」
堺雅人が22年に田辺エージェンシーから独立したのをはじめ、佐々木蔵之介や佐藤隆太、多部未華子、黒木華など、大物俳優の独立が増えているのは事実だ。
「いまは大手の事務所を辞めたからといって、まず“干される”心配はありません。2019年には公正取引委員会が、芸能事務所が退所したタレントの<出演先や移籍先に圧力をかけて芸能活動を妨害する>行為は、独占禁止法上の問題になり得るとの見解を示しています。にもかかわらず“干した”事実が発覚したら、ダメージを被るのは芸能プロの側でしょう。そのせいか最近は、“『円満退社』を強調したいのはタレントではなく事務所の方だ”という声も聞こえてきます。それこそ、独立したタレントがYouTubeチャンネルを立ち上げて、“辞めた事務所には長年、搾取され続けていました”“社長からのセクハラが耐えられなかった……”などと涙ながらに訴えたら目も当てられません」
いまの時代ゆえのリスク
藤井氏は、芸能界においても「コンプライアンス問題に対する世間の目が厳しさを増している」と話す。
「芸能プロやタレントの新たなリスク要因として、コンプライアンスの問題が大きくクローズアップされているのは間違いありません。香川照之の性加害報道や、旧ジャニーズ事務所をめぐるスキャンダルなどは、いまの時代だからこそ大きく取り上げられた気がします。そして、タレントのスキャンダルについて世論が盛り上がると、所属事務所の屋台骨を揺るがすような事態になってしまう。タレントがCMに出演していたとして、そのスポンサー企業が芸能プロ以上にコンプライアンスに厳しいことは十分に想像できます。芸能プロにとってタレントは人的資産であり、“商品”でもある。“商品”をめぐってトラブルがあれば、当然ながら会社の責任が問われます。ただ、当然ながらタレントも人間なので、過去の行動や私的な交友関係について完全に把握するのは難しく、マネジメントの限界を感じます」
コンプライアンスが重視される世の中では、その不確定な要素が、芸能プロにとってより大きな“リスク”になっているのだ。
「かつて東証1部に上場していた吉本興業は、2010年に上場廃止へと踏み切りました。島田紳助氏が反社会勢力との交際を理由として芸能活動を引退したのは、その翌年のことです。このとき、吉本が上場したままだったらどうなっていたでしょうか。株価への影響や、株主から訴訟を起こされる可能性もあった。仮に、現在も上場していたら、松本人志に関するスキャンダル報道は、会社にとってより重大な問題になっていたかもしれません」
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