だから母は僕にベッタリだったのか…両親の“秘め事”を盗み聞きして知った、彼らの複雑な関係性

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親子関係が「気持ち悪いもの」として…

 会社で倒れ、意識が戻らないまま数時間後に死亡が確認された。報せを受けた矩之さんが駆けつけたときはもう息をしていなかった。母は矩之さんに抱きついて号泣した。

「そんなに泣くならもっと仲良くすればよかったのにと思いましたが、母の涙は僕に見せるためのものだったのかもしれない。あるいは久々に僕を見て感情が高ぶっただけかもしれない。そんなふうに思うほど、僕にとってもう母は遠かった」

 父の通夜と葬儀がすむと、母は「戻っておいでよ」と彼に言った。私はあなたと暮らしたい、あなただけが私の人生なの、わかってるでしょ。この状態で息子に捨てられたら、私はどうしたらいいのと母は泣き崩れた。そんな母を横目に、彼は「散歩してくる」と家を出て、当時、つきあっていた恋人の家に行った。

「その日からバイトに行きました。休んだのは2日間だけ。オヤジが死んだことは店にも言わなかった。なんですかね、親子という関係そのものが常に気持ち悪いものとして僕の中に存在していたのかなあ」

 すでに友人たちはみんな就職が決まっていた。バイト先の店主が「のりちゃんはどうするの」と尋ねてきたが、「どうしますかねえ」とのらりくらり返事をしていた。そんなとき、店の客であるイベント会社の社長が声をかけてくれた。

「その会社、音楽関係のイベントを手がけることが多いらしくて、僕のギターを聞いてくれた社長がうちに来ないかと誘ってくれたんです。正社員でもバイトでもいい、きみが楽しく働いてくれればそれでいいよ、と。ずいぶん適当ですが、こっちも適当だったから、ああ、そういう仕事ならやってみたいですと即答しました」

 小さな会社だったから、手がけるイベントも大きくはない。それでも彼は初めて「自ら何かを計画し、それを遂行する喜び」を知った。それまで何をやっても心から楽しいとは思えない青春時代だったのだ。

「残業多い、土日は仕事、給料安い。今だったらブラックと言われてしまうような働き方だったけど、僕は楽しかった。たとえ安くても、好きなことをしてお金をもらえるんですからうれしかったですよ」

 一緒に仕事をした他社の女性と知り合ったのは28歳のころ。相手も同い年だった。そして彼は、その女性、優美香さんとつきあって半年ほどで結婚した。彼女が妊娠したからだ。

後編【身に覚えはないのに…「浮気をされた」と離婚調停 41歳夫が語る、最初から不可解だった「結婚生活」と「妻の正体」】へつづく

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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