未だ消えぬ「吉田正尚」の放出情報“舞台裏” レッドソックスの評価はなぜ低いのか
根強い「吉田放出」情報
左手親指腱の炎症で負傷者リスト(IL)入りしていたレッドソックス・吉田正尚(30)の「復帰時期」に関する見解が発表されたのは、5月12日(現地時間)のことだった。今のところ、手術の必要もなく、このまま炎症が収まれば、打撃練習も再開できるという。同日の試合前、アレックス・コーラ監督(48)も記者団に笑顔を見せ、こう語った。
【写真を見る】今季第1号を放った4月14日のエンゼルス戦での吉田の活躍
「良いニュースだ。状態が良くなれば、彼はチームを助けてくれるだろう。タイムテーブルは設けたくない。まず数週間は様子を見て、そこから今後のことを考える」
だが、肝心な復帰時期について聞かれると、クビを振りながら「メドは立っていない」と答えた。
4月28日のカブス戦で吉田はセンター前ヒットを放ったが、次の打席で代打を送られた。ヒットを打った際に違和感があったとのことだが、それ以降、チームには帯同しているものの、完全な別メニューで調整を続けてきた。打撃練習を再開させたとしても、実戦から遠ざかっている。何試合かマイナーで打席に立ってからの復帰となるため、「早くて6月上旬」というのが大方の予想だ。だが、
「昨年のオフから流れている吉田放出の情報はいまも消えていません。6月に復帰できるのなら、DHや左打ちのスラッガーを探している球団が動くでしょう。レッドソックスも交換要員がトッププロスペクト(若手有望株)なら、了承すると言われています」(現地メディア関係者)
きっかけは、昨シーズン最終戦を待たずに、編成トップのハイム・ブルームCBO(最高ブランディング責任者=41)が、成績不振の責任を問われ、解任されたことだった。新CBOのクレイグ・ブレスロウ氏(43)は元メジャー投手で、実働12年、通算576試合に登板している。ビジネスの様相も強いメジャー球団の背広組のなかでは、“異色の経歴”となるが、イェール大学卒の秀才でもあり、17年オフの引退後はカブスで戦力主導ディレクターに就き、GM補佐まで上り詰めた。
「レッドソックスには選手として計5年、在籍したこともあります。語り口がソフトで、性格もマジメ。多くの球団を渡り歩き、晩年は力の衰えも隠せませんでしたが、マイナーで3年ほど頑張りました。そんなマジメなブレスロウ氏が最初に着手したのは、コスト削減。レッドソックスは人気球団で、大都市・ボストンを本拠地としているので、補強資金も潤沢です。経済誌などの調査によれば、ヤンキース、ドジャースに次ぐ46億ドル(約7200億円)の資産価値があるそうです。でも、オーナーのジョン・W・ヘンリー氏は毎年、厳しめの運営予算を立ててきます。実直なブレスロウ氏は、それを重視しています」(米国人ライター)
チームが吉田放出に傾く理由
緊縮財政の影響でまず「放出要員」の候補に挙がったのが、吉田とクローザーのケンリー・ジャンセン(36)だった。昨年末には、ベテラン左腕のクリス・セイル(35)をブレーブスに放出している。近年、セイルは好成績を残していなかったが、チームの看板選手でもある。あっさりと見切りをつけたことにファンも驚いた。ちなみに吉田は昨季、打率2割8分9厘、本塁打15、打点72(140試合出場)の好成績を残している。「1年目」としては“合格点”と言っていい。
「ですが、ブレスロウ氏は吉田にドライな評価をしています」(前出・同)
22年オフのこと。吉田との交渉が解禁と同時にレッドソックスがアポイントを入れた理由は、吉田が同年に残した4割4分7厘という高い出塁率にあった。出塁率の高いトップバッターを探していたからだが、昨シーズンの吉田の出塁率は3割3分8厘。レギュラークラスの選手としては“中の上”といったところだ。バットマンとしては合格点でも、実際はチームが求めるタイプではなかった、との評価だ。
また、守備のWAR(同じポジションの代替可能選手に比べ、何勝を上積みできるかを示す評価指標)ではマイナス0.4。チームではワーストであり、MLB全体でもワースト4位に入っている。
「22年オフに5年9000万ドル(約117億円)の大型契約を結び、24年に支払われる年俸分は1500万ドル(約19億5000万円)です。打撃成績は高くても、一番求めていた出塁率が普通で守備もいまひとつ。高額年俸分の働きはしていないと判断しているようです」(前出・同)
一方、吉田と同じ放出候補となったジャンセンだが、投手陣に故障者が続出したため、「放出は良策ではない」の声が強くなった。そうなると、シーズン途中での移籍の可能性があるのは吉田一人ということになる。しかもチームではタイラー・オニール(28)、ジャレン・デュラン(27)、ウィルヤー・アブレイユ(24)が外野のレギュラーとして固定されつつある。吉田の打撃力を評価する球団は多いので、ケガが治ったら、一気に話がまとまるかもしれない。
「吉田の高額年俸がネックになっていると言われていますが、セイル放出のケースがモデルケースとなるようです。セイルは昨年オフ、2年3800万ドルでいったんレッドソックスと契約し、その後にトレード放出されました。3800万ドルのうち、1700万ドルをレッドソックスが負担する条件で交換トレードがまとまりました。レッドソックスは3800万ドルの支払いが、半分以下の1700万ドルで済んでホッとしています」(前出・現地メディア関係者)
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