昨年は記録的“大不漁”だった「富山のホタルイカ」が、今年は過去最高の“大豊漁”! “水揚げ日本一”を兵庫県から奪還できるか?

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例年の主役は小ぶりな「兵庫県産」

 ただ、「ちょっと変だな」と思った人もいるであろう。ホタルイカは毎年、春にお目見えするし、それほど高級なイメージはない。そのワケは、ホタルイカと言えば富山県ではなく、実は兵庫県産が水揚げ日本一であり続け、スーパーの常連だったからだ。

 兵庫県では、沿岸というより沖合20kmほどの海域で、底引き網漁によってホタルイカを漁獲する。富山湾のように産卵のタイミングではないため、漁獲対象もオス・メス混在のようだ。産卵期か否かが決め手かどうか分からないが、富山県産に比べて小ぶりな兵庫県産は例年、富山県産の2倍以上の漁獲量を誇り、流通の主体となっている。

 富山県産が大不漁だった昨年は、東京への出回りも少なく、ほとんどが兵庫県産だった。しかし、今年は3月から富山産がたくさん市場に入荷していたため、「兵庫産と卸値の差があまりなくなり、スーパーなど多くの鮮魚量販店が富山産に仕入れを切り替える傾向が強まった」と豊洲の競り人は話す。

酢味噌はもちろん、「ジェノベーゼ風」もお薦め

 その結果、今年のホタルイカは「ふっくらして、濃厚なワタがたっぷり入っているな」といった印象になっているのではないか。比較的小粒な兵庫県産と比べて、「味は大差ない」という人が多いため、もちろんチョイスは好み次第である。

 夏日となる日も増えたことで、さっぱりと酢味噌で、あるいはワサビや生姜醤油などで食べるもよし。スライスしたニンニクと一緒にオリーブオイルで炒め、バジルソースとともにパスタと絡めた「ジェノベーゼ風」もお薦めだ。

 富山・兵庫の両県産、どちらもおおむね春限定の旬の味だ。サンマやサケ、イカなど、旬の魚介が不漁続きの中で、なぜだか富山県産ホタルイカは大豊漁。兵庫県産が5月末で漁を終えるのに対し、富山県産は6月に入っても漁はあるというから、このまま漁が続けば、2011年以来、13年ぶりに富山県がホタルイカの水揚げ日本一になる可能性も高まってきた。

「謎の大豊漁」――。来年はどうなるか分からないだけに、大粒・親指ほどの富山県産ホタルイカを今のうちに味わっておくのもいいかもしれない。

川本大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長。1967年、東京生まれ。専修大学を卒業後、91年に時事通信社に入社。長年にわたって、水産部で旧築地市場、豊洲市場の取引を取材し続けている。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)など。最新刊に『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)。

デイリー新潮編集部

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