「どの曲も可愛い存在なんです」 怒らないし自慢もしない、“歌手”松本伊代のひたむきさ

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所さんと憲武さんとヒロミさんが腕を組んでスタジオに…

 ここからは2024年の音楽活動も尋ねていこう。まず、2月にはソロで「ちょっと素敵なジャーニー」を、そして松本伊代、早見優、森口博子によるキューティー☆モリモリ名義で「そろそろ冬ですネェ」を配信限定で同時リリースした。前者は♪伊代はまだ16才だから 27才24歳の長男次男 私を抜いて育ってくれた~というフレーズも面白いロックンロールで、後者はキャンディーズの「哀愁のシンフォニー」を令和版に焼き直したようなマイナー調のポップスだ。

「この2曲は、所ジョージさんに作詞・作曲していただきました。所さんは、(夫である)ヒロミさんの楽曲制作のブレーンで、ヒロミさんが“ママにも書いてあげてよ”と、言ったことで実現しました。その♪私を抜いて育ってくれた~という歌詞は身長の話だと思っていたのですが、♪伊代はまだ16才だから~に続くから、年齢なのかも?今、初めて気づきました(笑)。最後の1行の ♪私のために100キロ走ったパパありがとう~ は、木梨憲武さんのアイデアで追加されました。レコーディングは、所さんと憲武さんとヒロミさんが腕を組んでスタジオに座ってこちらを見ている中で行われたので、めっちゃ緊張しました(笑)。

『そろそろ冬ですネェ』の方は、憲武さんがプロデュースしてくださったんですよ。この2曲は、キューティー☆モリモリのコンサートでは歌っています。是非聴きにいらしてください!」

 この3人でのコンサートは、かれこれ10年近く続いているが、関係性はどうなのだろうか。

「3人は、友達であり、同志であり、今では何でも話せる存在ですね。優ちゃんは、同期だし、久しぶりに会っても分かってもらえるし…私は“優ちゃん依存症”みたいなもんですね(笑)。私は優ちゃんをガッツリ頼りにしていて、優ちゃんも私をちょっとだけ頼りにしてくれて。“何かしようか”って、コロナ禍でのYouTubeでも、お仕事の曲でも、自然に決まりますね。

 博子ちゃんの方は、そんなに私たちと年齢が変わるわけじゃないのに、私たちを大先輩だと言って、必ず立ててくれるんです。すごく気を遣ってくれて、いつも褒めてくれるし、一緒にいてとても心地よい人なんです。だからこの3人の関係は、ずっと続いていくと思います」

 そういえば、1981年に『ザ・ベストテン』の注目作を紹介するスポットライトのコーナーにも揃って登場し(その後2人とも初のベストテン入り)、翌年は4月から9月にかけてバラエティー型のドラマ『ピンキーパンチ大逆転』にW主演した柏原芳恵とは、今、交流があるのだろうか。

「当時は、同級生とはいえ芸能界デビューが1年先輩なので、しばらく“芳恵さん”と呼んでいましたが、いつの間にか“芳恵ちゃん”と呼ぶようになりましたね。今でも、芳恵ちゃんは、お誕生日など何かの際に、必ずショートメッセージを送ってくれてやり取りをしています」

 4月10日にはNight Tempo の「Tokyo Love(feat. Iyo Matsumoto)」がリリースされ、松本は歌唱と作詞で参加している。打ち込みの多いNight Tempo作品の中にあって、生楽器の魅力が新鮮で、クールビューティーな松本の作品。これまでとはまた異なるカッコよさがある。

「これは、Night Tempoさんいわく“エモい曲”になっているとのことです。作詞は、サビの♪Love Storyは~ という部分をNight Tempoさんが予め考えてくださっていて、それ以外の部分を私が作りました。でも、今の年齢のままでは気が引けるので(苦笑)、自分が20代だった頃の恋愛を想像して書いてみました。正確には当時の東京タワーは“インフィニティー・ダイヤモンドヴェール”ではなく、歌詞中のチェリーピンクも無いのですが、逆に、現在なのか過去なのか分からない時空を超えたものとして完成しました。後半の♪2人の愛はtrueるぅ~ の部分にはひと工夫していて、Night Tempoさんの楽曲なら海外での発信も重要だと思って、ちょっと英語風に書いてみたんです(笑)」

 そして、10月には東京で2DAYSのコンサートも行う予定だ。

「今回は、東京をテーマに選曲したいと思っています。去年のコンサートは台湾から来てくださった方もいらっしゃいましたが、インバウンド需要はまだまだ続くので、海外の方ももっと来てくださーい(笑)。私の声が出る限り、ライブを定期的にやりたいですね。ボイストレーニングは、(ボーカルグループの)AMAZONSさんの斉藤久美さんに個人レッスンをしていただいて、とっても楽しいんです。だから、コンサートも楽しくて、お客様にも楽しんでもらえたらいいなと思っています!」

 近年の松本のコンサートは、アイドル全盛時代よりも豊かになった表現力を楽しめながらも、天然ボケなMCやファンの声援などで、とても温かい雰囲気に包まれている。最後に、読者へのメッセージをお願いすると、

「今、若い方々が昭和世代の楽曲を聞いてくださっているという話をよく耳にするので、嬉しいです。その延長で、私の曲ももっと聴いてもらえたら(笑)。たまたまシングルで選ばれた曲も、アルバムの中の1曲も、レコーディング中はどれも同じペースで歌っているので、どの曲も可愛い存在なんです。とはいえ、『センチメンタル・ジャーニー』が一番聞きやすいでしょうし、代表曲がもっともっと聞かれるのも嬉しいですよ!」

 松本伊代という人は、自分を悪く言われたとしても、笑って決して本気で怒らないし、また、逆に、自分の自慢に聞こえてしまいそうな時でも、笑って決して真顔では言わない。そんな風に、いつも笑顔で時に天然ボケの発言もあるから、あまり気づかれないだろうが、彼女は、並大抵の努力でここにいるのではない、ということがあらためて分かった。また、パートナーであるヒロミの話が出てくるのもごく自然だし、肩ひじを張っているわけでもなく、だからこそ、周りから信頼されて仕事が途絶えないのだろう。

 今、当時以上に、様々な注目曲が出ている松本伊代なだけに、歌手を含む彼女のタレントとしてのピークは、もしかして還暦過ぎに来るのではとさえ思えてくる。

(取材・文:人と音楽を繋げたい音楽マーケッター・臼井孝)

松本伊代(まつもと・いよ)
東京都出身、1965年6月21日生まれ。’81年10月にシングル「センチメンタル・ジャーニー」でデビュー、累計30万枚を超えるヒットに。当時のキャッチフレーズは「瞳そらすな僕の妹」。以降も「抱きしめたい」「時に愛を」「ビリーヴ」「サヨナラは私のために」などがヒット。デビュー40周年のLIVEを機に再び単独自主公演など音楽活動に力を入れ活動中。早見優、森口博子との3人組でコンサート『青春のアイドルヒットステージ』を不定期に行っている。Instagramは(@iyo14_official)。

臼井孝(うすい・たかし)
人と音楽をつなげたい音楽マーケッター。1968年、京都市生まれ。京都大学大学院理学研究科卒業。総合化学会社、音楽系の広告代理店を経て、'05年に『T2U音楽研究所』を設立し独立。以来、音楽市場やヒットチャートの分析執筆や、プレイリスト「おとラボ」など配信サイトでの選曲、CDの企画や解説を手がける。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)、ラジオ番組『渋谷いきいき倶楽部』(渋谷のラジオ)に出演中。データに愛と情熱を注いで音楽を届けるのがライフワーク。

デイリー新潮編集部

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