「どの曲も可愛い存在なんです」 怒らないし自慢もしない、“歌手”松本伊代のひたむきさ

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記録と記憶で読み解く 未来へつなぐ平成・昭和ポップス 松本伊代(3)

 この連載では、昭和から平成初期にかけて、たくさんの名曲を生み出したアーティストにインタビューを敢行。令和の今、Spotifyなどの音楽ストリーミングサービス(サブスク)で注目されている人気曲をランキング化し、各曲にまつわるエピソードを深掘りすることで、より幅広いリスナーにアーティストの魅力を伝えていく。

 松本伊代へのインタビュー最終回となる第3弾では、まだまだ語り尽くせていない名曲や、2024年の活動について語ってもらった。

雪の真夜中、尾崎亜美さんの自宅を訪問するも…

 まずは、第9位の「時に愛は」について。本作は、1983年に発売された通算9作目のシングルで、主演ドラマ『私は負けない!ガンと闘う少女』(TBS系)の主題歌に起用された、松本にとって初のバラード・シングルだ。共感を呼ぶ表現力の高さから、当時の各種ランキングでTOP10入りし、松本の楽曲の中でも「センチメンタル・ジャーニー」以来の高セールス(累計18.7万枚以上)を記録した。リアルタイム世代にとっては、長らく松本の2大代表曲に数えられてきた。そんな「時に愛は」が第9位というのは、サブスク時代の現在、本作以外も様々な楽曲が人気を得てきた何よりの証拠だろう。

 本作については、作詞・作曲を手がけた尾崎亜美が“歌唱指導をしてほしい松本が、真夜中の雪のなか、自宅まで歩いて訪問してきた”というエピソードを何度も語っている。それだけ強烈なインパクトがあったのだろう。

「スロー・バラードに挑戦したことで、周りのスタッフの方々がヒットさせようと意気込んで下さいました。私自身も“バラードを歌いたい”とリクエストしたくせに、上手く歌えないなぁってずっと悩んでいたんですよ。それで、もう亜美さんに直接聞くしかない、って思いつめちゃったんでしょうね(笑)」

 その甲斐あってか、声量を抑えながらも言葉を伝える、いわば“つぶやき歌唱”を習得し、歌手として確実にステップアップした。

「でも結局、亜美さんは直接教えてくれなくて(笑)、ピアノをポロリンと引きながら、“一番大事なのは気持ちよ”と言われて、練習はすぐに終わって。その後、手料理を美味しく食べ、マイケル・ジャクソンが出ている『オズの魔法使い』のお話(ミュージカル映画『ウィズ』)をビデオで観ました」

 本作や杏里「オリビアを聴きながら」のカバーなど、尾崎亜美作品を歌ったアルバム『Sugar Rain』に収録の「風にのった日」も、ランキングでは14位と健闘。♪もうすぐ心が羽になる~ というフレーズが象徴するように、ドリーミーで優しいスロー・バラードだ。

「『風にのった日』は、自分でも少し忘れちゃっていたくらいで、タイトル曲の『Sugar Rain』の方が目立っていたはずなのに。自分の感覚と違って不思議ですね~。シングルの『恋のKNOW-HOW』も、33位どまりなのに…。これは、当時、亜美さんから”もっと、One!Two!の部分をカッコよく歌って!こういう風に!“と指導してもらったのですが、なかなか歌えなかったのを覚えていますね。それで力強く聞こえるのかも。他にも、第40位の『流れ星が好き』は、演奏音が無になる所が目立って当時は歌うのが難しかったのですが、ずっとスローなので今ならば『時に愛は』よりも自然に歌えます。『時に愛は』の方が、スローだけど途中からテンポ感があって意外に難しいんですよ」

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