松本伊代、本人も驚いた楽曲の“逆転”海外人気… 隠れた名曲がサブスク上位で「お目が高い(笑)」

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記録と記憶で読み解く 未来へつなぐ平成・昭和ポップス 松本伊代(2)

 この連載では、昭和から平成初期にかけて、たくさんの名曲を生み出したアーティストにインタビューを敢行。令和の今、Spotifyなどの音楽ストリーミングサービス(サブスク)で注目されている人気曲をランキング化し、各曲にまつわるエピソードを深掘りすることで、より幅広いリスナーにアーティストの魅力を伝えていく。

 今回は、松本伊代へのインタビュー第2弾。第1弾は、ダントツ人気の『センチメンタル・ジャーニー』をはじめとした筒美京平ポップスについて語ってもらったが、今回は第2位以下に多くランクインしているアルバム収録曲を中心に語ってもらった。

「35年ぶりに歌ったのですが…」 “あの頃”も続けていた音楽活動

 Spotifyの再生回数ランキング第2位は、1989年の発表当時にアルバムチャートでオリコン最高97位だった『Private File』収録の「Private Fileは開けたままで・・・」。この曲は8割以上が海外で聴かれており、主に強いのがアメリカと、フランス。アメリカでは日本の約3倍も聴かれている。LP時代、4作がアルバムチャートTOP10に入るヒットを持つ松本の作品のなかでは、『Private File』は決して目立つ存在ではないものの、ブレイク前のKANや小西康陽が楽曲を手がけた意欲作として評価する音楽ファンは多い。後にアレンジャーやプロデューサーとしても活躍する西脇辰弥が作曲・編曲した「Private Fileは開けたままで・・・」も、煌びやかなサウンドと、明るく弾けた松本の伊代の歌声の相性が抜群で、まさにシティポップ・ファン垂涎の仕上がり。DJ NOTOYAによる80年代の楽曲を集めたコンピレーションCDや、韓国のDJ兼プロデューサー・Night Tempoによるリミックスが近年大きな話題となり、今や松本の第2の代表曲となっている。

「昨年11月に、Night Tempoさんのミックス・バージョンで、発売以来約35年ぶりにこの歌を歌ったのですが、ノリノリのテンポにしてくださったので、とっても歌いやすかったです!(2位に)このアルバムのこの曲が選ばれるなんて思いもしなかったので驚きましたし、とても嬉しいです。他にもこのアルバムからは、『有給休暇』(作詞・作曲・編曲:小西康陽)を、野宮真貴さんのライブで近年歌わせていただきました。ピチカート・ファイヴさんの曲はどれも好きで、自分のライブでも歌わせてもらっています」

 昭和から平成に変わった発売当時、松本は、音楽番組よりもドラマやバラエティー番組で活躍していたイメージが強く、自身のタレントショップのプロデュースなども手がけていた。ともすると、音楽活動を軽視していたように思われがちだが、作品の完成度からは、そういった片手間な様子は一切感じられない。

「そうですね、実際には歌に注力したいという想いはずっと持ち続けていて、アルバム制作に携わるのもとても好きでしたが、テレビの印象が強いんだと思います。でも、私は志村けんさんとのコントなど、バラエティー番組も好きなんです!この前のアルバム、『風のように』あたりから、曲に関しても意見を聞いてもらえるようになりました。当時、“まずは形から”と思ったのか、ジャケットを見返すと、その前の『天使のバカ』以降は、笑っているものがありませんね。アイドルじゃなくて、大人のアーティストになりたかったんだと思いますね(笑)」

 続いて第3位は、1982年の2ndアルバム『サムシングI・Y・O』(オリコン最高4位)収録の「バージニア・ラプソディ」。キーボードで始まる洋楽テイストの明るいサウンドや軽やかな歌声は、歌謡曲時代の作品ながら、むしろJ-POPのノリに通じるものがある。この曲も8割以上が海外で聴かれており、主に強いのが、やはり日本の約3倍再生されているアメリカ、そしてメキシコ、ブラジル、イギリスと続く。

「人気と聞いて、去年のコンサートで歌ったんですよ!『Private Fileは開けたままで…』と違い、誰かがプッシュしてくださったわけではないので、この歌自体にチカラがあるってことなんですよね?当時は子どもでしたし、この歌がどういう位置づけで作られたとかは分かってなかったのですが、ただ純粋に亀井登志夫さんの書かれる曲が好きで、亀井さんがラララ~と歌ったものも、カッコよくて大好きでした」

 ちなみに、本作はブレイク前の康珍化が作詞、亀井登志夫が作曲を担当している。同コンビでは松本のシングル「抱きしめたい」を手がけ、ともに初のオリコンTOP10入りを果たした。以降、両者ともオリコン1位シングルを手がける人気作家になっていくのだが、本アルバムでは、リードシングル「ラブ・ミー・テンダー」以外の全曲の作詞・作曲を二人が手がけているのも興味深い。ちなみに編曲はすべて、今や世界的に活躍している音楽プロデューサーの鷺巣詩郎が担当している。

「この曲やアルバムを聴いてくださっている方は、本当にお目が高いなと思います。“実はいい曲だ”とちゃんと見つけてくださるなんて。私もこの歌は大好きで、当時からコンサートで歌ってはいたのですが、今聴くとイライラしてしまうほど、歌い方が軽いですね(笑)。でも、当時の私の歌声と、歌詞とメロディーが見事にマッチした名曲だと思います。実は30周年くらいの時も歌いたかったけれど、歌詞が若さ全開で恥ずかしくて、歌えなかったんです(笑)。一周回った今なら歌えると思って、去年のコンサートでは歌いました。今は船山基紀先生にアレンジしていただいて、大人っぽい雰囲気にしてもらっています」

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