「築50年」老朽化マンションの売却益がまさかの“6000万円”! 10年かけて住民の合意にこぎつけた「再生プラン」とは?

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「お金だけじゃ決められないことも」

「B社の敷地活用のプランは、住居用のマンションではなく、テナントの入る商業ビルだったのです。実は、私も負担金を払って住み続けるのではなく、敷地の売却益で別のマンションに住み替えると決めていました。だから、売却益を最大化するためにはB社のプランに賛成するのが正解でした。ただ、A社とB社が拮抗する様子を見て、最終的にはマンションへの建て替えを計画するA社のプランに入れました。理由は、住民の一定数が“負担金を払ってでも、またこの場所に帰ってきたい”と希望されていたからなんです」(Y氏)

 B社の商業ビルのプランが採用されれば、「帰ってきたい」と希望する住民の想いは叶わないことになる。管理組合のメンバーとして、帰ってきたい人も、転居する人も、それぞれの事情を尊重できるのはA社の案だと判断したのだという。

「お金を取るならB案だったんですけどね(笑)。愛着のあるマンションだし、住民の皆さんの顔も分かりますしね。やっぱりお金だけじゃ決められないですよね」(Y氏)

 Yさんのように考えた住人がいたからなのか、実際のところは分からないが、多数決の結果はデベロッパーA社によるマンションの建て替え案が採用された。ところが、これで終わりではないのである。肝心の「敷地売却決議」が採択されなければ、売却は実現しない。

 しかし、最後にして最大の難関こそ、この敷地売却決議なのである。決議には全部で3つの要件がある。

1 区分所有者の5分の4の賛成
2 議決権の行使数のうち5分の4の賛成
3 敷地利用権の持ち分のうち5分の4の賛成

「2つめの議決権は、例えば共同名義の場合は合わせて1票になります。それより重要なのが3つ目の区分所有権による投票。分かりやすく言えば、全体の10%に満たないものの、マンション内の1番広い部屋を所有する3世帯が反対に回ると、採決できない状況でした」(Y氏)

 しかも、実際にその広い部屋に住む所有者は敷地売却反対派だったそうだ。

約6000万円の売却益

「各家庭の事情をお話しするなど、ご理解を頂けるよう説明を重ねてきましたが、もちろん最終的には所有者の判断ですからね。反対する人にも、やっぱりそれなりの事情がある」(Y氏)
 
 最後まで全戸賛成とはならないまま、緊張の投票日を迎えることになった当日、Yさんは管理組合の役割として、弁護士の開票作業を見守っていた。

「反対票を投じられた方もいて、本当にギリギリでしたが、敷地売却決議は採択されることになりました。正直、ほっとしましたね。もし否決されたら、全部白紙ですからね」(Y氏)

 敷地売却決議が採択された後は、区の認可を受けた「敷地売却組合」が結成され、組合が銀行から売却金額相当額を借り受け、まず金利やコンサルタントへの支払いなどを差し引く。次いで、住戸ごとに算定された評価額に基づき、売却金を分配する流れとなる。その後、デベロッパーが売却金を組合に振り込み、組合の銀行への借受金の返済を持って、ようやく敷地売却の全工程が終了する。

 Yさんの場合は、約6000万円の売却益を得られる予定だという。

「10年の歳月をかけて、住人の皆さんと一緒に1つの答えを導き出せた充実感はありますね。ただ、管理組合の仕事が忙しすぎて、まだ肝心の転居先が決まっていないんですよ。新しいマンションでも管理組合をって? いや、しばらくは勘弁して欲しいですね(笑)」

 そう笑うYさんの表情は、どこか誇らしげに見えた。

前編【「築50年」マンション建て替え「10年奮闘記」 住民が愛着あるマンションの将来を直視せざるを得なくなった“非常事態”とは?】からのつづき

デイリー新潮編集部

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