「築50年」老朽化マンションの売却益がまさかの“6000万円”! 10年かけて住民の合意にこぎつけた「再生プラン」とは?

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建て替えには一戸あたり約6000万円の負担金が必要に

「3つの再生案を吟味し、C案の敷地売却がもっとも現実的だろう、という話で方向性が決まったわけですが、3つの案を1つに絞るまでも大変でした。耐震診断や配管の劣化度調査を実施するのも、費用がかかりますよね。その予算を取るためにも決議が必要なんです」(Y氏)

 マンション再生案の検討を進めるため、調査に必要な予算を確保するために、まず「マンション建替検討推進決議」を採択することになる。この決議は住人の過半数の賛成で成立する。

「この決議を採択したのが2020年です。組合のメンバーで建設会社を招いての勉強会を始めてから、2年ほどが経過していました。この時、合わせて“住まい調査アンケート”という質問票を配布したのですが、その時点で建て替えや敷地売却など、“マンションの将来を真剣に考える必要がある”と回答したのは、まだマンション内の半数ほどでした」(Y氏)

 B案の建て替えについて、実際にデベロッパーに見積もりを依頼したところ、多額の負担金が必要だと判明したのもこの時期だった。

「建て替え時にマンションの階数を2つほど積み増せることが分かっていたので、デベロッパーの販売利益を鑑みれば、負担金は2000~3000万円ぐらいだろうと予想していたのですが、甘かったですね。実際は一戸あたり6000万円前後かかるというのが、デベ側の試算でした」(Y氏)

 建て替え費用の捻出には、全戸が負担金の支払いをする必要があるが、区分所有者の全員が高額な負担金を支払う「建て替え案」に賛成するのは非現実的だった。マンションの約半数はオーナーが賃貸物件として貸し出しており、賃借人の一次退去などの交渉も難航が予想された。

住民の多数決が2社のプランで拮抗

 こうした段階を経て、マンション住民の総意は「敷地売却」にぐっと傾くことになるのだが、さらに本格的な話を進めるためには、新たに「敷地売却推進決議」を採択する必要があった。

「この決議自体も過半数の賛成で成立するのですが、この時点で反対する世帯もあったので、最終的に“敷地売却決議”を採択できるかはまだまだ予断を許さない状況でした」(Y氏)

 昨年の決議を経て、Yさんたちマンション管理組合は、コンサル会社に間に入ってもらい、デベロッパーA社とハウスメーカーB社とC社、建設会社のD社、計4社に敷地売却に向けてのプラン出しを依頼。A、B、Cの3社から回答を得た。

「いわゆるコンペですね。3社に順番に住民への説明会を実施してもらい、どの社のプランを採用するか、多数決を取りました」(Y氏)

 この中で1番高値での敷地売却を提示してきたのは、ハウスメーカーのB社だった。ところが、最終的に採用されたのはデベロッパーA社のプランだったという。どうせ敷地を売却するのであれば、なるべく高値で売れる方が望ましいはずだが、一体なぜか――。

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