「築50年」マンション建て替え「10年奮闘記」 住民が愛着あるマンションの将来を直視せざるを得なくなった“非常事態”とは?

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建て替えの“旨み”は都市計画法の用途区域しだい?

 修繕積立金の残高を、今回のようなイレギュラーな出費に使うわけにもいかず、工事の実施には一戸あたり700~800万円の自己負担金が発生することに。ただ、意見が賛成でまとまる気配はなかったという。

「各戸それぞれに事情がありますからね。終の棲家のつもりで何十年も住んでいる人もいれば、つい最近、中古の物件として購入した世帯もいる。そうした方たちからすれば、いきなり追加費用が発生するのはキツいし、賃貸に出しているオーナーさんたちにとっても、追加費用=利回り低下ということになりますから、賛成で意見をまとめるのは難しそうでした」(Y氏)

 とはいえ、老朽化したマンションに永遠に住み続けることはできない。とすると、残る再生案はB案の「建て替え」とC案の「敷地売却」となる。ただこの2案は、マンションの建つ敷地が、現在の都市計画法の用途区域でどのように定められているかによって、新たに建てられるマンションの内容が大きく異なってくる。

 例えば、「第一種低層住居専用地域」と定められた敷地だと、建物の高さが10メートルや12メートルなどに制限されている。一方で「近隣商業地域」と定められていれば、そうした制限は大きく緩和され、住居に加え飲食店や事務所、小規模な工場も建設することが可能になる。このような用途区分は全部で13種類ある。

「私たちのマンションが建っていた敷地は“商業地域”と定められていたので、立て替える際にもう少し階数を積み増すことが可能だと分かりました。同じ敷地でより階数の高いマンションに建て替えることができれば、新たに販売できる部屋数が生まれるため、その利益分を建て替え費用に充てることができるのです」(Y氏)

 一等地に建つY氏の住むマンションは、プランCの「敷地売却」により多額のキャピタルゲイン(差益)を得ることが可能だと分かったのだ。ただ、実際にマンションの建て替えを実現させるためには、まだ数々の障壁が残っていた。

 後編では、そうしたハードルを1つずつ乗り越え、Y氏が約6000万円ものキャピタルゲインを実現するまでの軌跡をたどる。

デイリー新潮編集部

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