「築50年」マンション建て替え「10年奮闘記」 住民が愛着あるマンションの将来を直視せざるを得なくなった“非常事態”とは?

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古いマンション特有の構造的な弱点

 住み始めた当時は、将来的な建て替えの可能性までは想定していなかったというYさん。潮目が変わったのは、10年前の2014年頃。物件内の住戸で漏水事故が起こったことがきっかけだった。

「40戸に満たないマンションで、半分ぐらいは賃貸に出されていたので、すぐに管理組合のお鉢が回ってきまして、かれこれ10年ぐらい役職を担当しています。ちょうど組合に入った頃、漏水事故が起きて対応にあたったのですが、築古マンションゆえの問題がありましてね」(Y氏)

 それはずばり、配管スペースの問題だった。

 最近の一定グレード以上のマンションは「二重床・二重天井」と呼ばれる構造で、その名の通り、上の階の床から下の階の天井までが二重になっている場合が多い。しかし、Y氏のマンションをはじめ築50年クラスのマンションは「直床・直天井」の構造が多く、こちらは上の階の床の下がそのまま下の階の天井となっている。

「スラブ下配管って言うんですけどね、漏水を起こした配管の修理をするには、下の階の天井を開けて工事する必要がある。漏水を未然に防ぐための排水管の更新工事については、工事に協力してもらえないケースもあって、これがなかなか一筋縄にはいかないんですよ」(Y氏)

 その部屋で起きた漏水の修繕工事はなんとか無事に終わったものの、その後も別の部屋で漏水が起きるなどし、一気にマンションの老朽化問題が明るみに。管理組合が建設会社に依頼し「汚水管劣化度調査報告書」を作成してもらうと、あちこちで排水管が劣化していることが分かった。

「その頃からマンション内の空気が、そろそろ“再生”について本気で考えないとね…という雰囲気に少しずつ変わっていきました」(Y氏)

3つの「マンション再生検討案」

 とはいえ、まずはどんな再生方法があるのか、勉強するところから始めなくてはならない。Yさんたちマンション管理組合は、建設会社に相談し「マンション再生検討案」を出してもらうことにした。

 建設会社が提示した再生方法は全部で3つ。

A案:耐震補強を含む大規模な改修・修繕工事
 排水管の一新や建物内のバリアフリー化、耐震工事やオートロックキー導入、居室の床の張り替えなどで、現在のマンションの基準に近いような設備や構造にアップデートする。

B案:建て替え
 一戸一戸が応分の費用を出し合い、マンションを建て替える。ただし、資金面の問題から現実的にはほぼ不可能。現在の建築基準に照らし合わせ、階数を増やすなどで建物の延べ面積を増やせる場合もあり、そちらをデベロッパーに買い取ってもらい、建て替え費用に充てられるケースもある。逆に、現在の建築基準に合わない物件は「既存不適格」となり、元通りへの建て直しが出来ないケースもある。

C案:敷地売却
 マンションの敷地をデベロッパーに売却する。再建されたマンションに一定の割引を得て再入居するか、売却代金をもって転居することも可能。再建する物件は必ずしもマンションとは限らない。

 まずA案から検討を進めたが、ネックとなったのが「耐震工事」だった。マンション再生プランを策定してもらうには、マンションの「耐震診断」を受ける必要があったのだが、その結果はなかなかにシビアなものだった。

「耐震診断を受けるのにも住民の半数以上の賛成が必要なのですが、それはクリアできた。問題は診断結果で、コンクリート強度が必要な基準を下回っていたのです。必要な基準まで強度を上げるためには耐震補強工事が必要で、費用は2~3億円かかるということでした」(Y氏)

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