【虎に翼】異例の“台詞なし23秒間”演出、寅子の怒りを込めた演説が意味すること

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寅子がぶつけた怒りの言葉

 明律大学女子部出身者が集った高等試験合格の祝賀会で、新聞記者からの質問に答えて寅子は語り出す。

「志なかばであきらめた友。そもそも学ぶことができなかった……、その選択肢があることすら知らなかったご婦人方がいることを私は知っているのですから。

 でも今、合格してからずっとモヤモヤしていたものの答えがわかりました。私たち、すごく怒っているんです。

 ですよね。法改正がなされても結局、女は不利なまま。女は弁護士にはなれても裁判官や検事にはなれない。男性と同じ試験を受けているのに……ですよ。

 女ってだけで。できないことばっかり……。ま、そもそもがおかしいんですよ。

 元々の法律が……私たちを虐げているのですから。生い立ちや、信念や、格好で切り捨てられたりしない。男か女かでふるいにかけられない社会になることを私は心から願います。いや……みんなでしませんか? しましょうよ!私はそんな社会で何かの一番になりたい。そのためによき弁護士になるよう尽力します。困っている方を救い続けます。男女、関係なく……」

 怒りがこもった演説。次第に口調が強くなっていく。朝ドラでは異例ともいえる長回しの1カット。寅子役の伊藤沙莉が見事に演じきった。

 この言葉は寅子が“敗者”たちの思いを背負って生きていくという決意表明だ。“敗者”……それは法律・制度や偏見や差別などの「社会」そのものが作り上げた存在であり、本当の意味での敗者ではなく、“社会的弱者”に過ぎない。女性たちはその代表なのである。法律家として、こうした人たちのために生きていく。よりよい社会を作っていく。“敗者”の思いとともに生きる、心を寄せていく、法律家としての覚悟が示された。

 女性への差別という“理不尽”との闘い。寅子の言葉を借りるならば「地獄」の日々がこれからも続く。当時の法律では寅子は裁判官にはなれない。よねのように性的な役割を拒絶する服装だけで試験を落とされる偏見の壁も厚い。“敗者”にならざるをえなかった人たちの思い。それを背負って地獄と向き合おうとする猪爪寅子の今後の活躍が楽しみだ。

 今週からいよいよ寅子の弁護士としての仕事がスタートした。どんな地獄が待っているのだろう。

水島宏明/ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授

デイリー新潮編集部

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