「健康的に映る“野菜依存症”のワナ」 数々の著名人の食生活を採点してきた管理栄養士が明かす「理想の食卓」

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荒牧さん自身の食卓日記

 ブリア=サヴァランはフランスの美食家として知られ、「禽(きん)獣は食らい、人間は食べる。知性ある人間だけがその食べ方を知る」などの名言を残している。

 世界には各地でそれぞれの美食が存在するが、共通しているのは、どこで誰と食べるかで、味わいが異なるということだ。

「私は今、ある施設をお借りして、若い人との共同炊事、共同生活の試みをやっているんです。そこに地域の高齢者の方もやって来て、一緒に食事をしたり、情報交換したりしています。実は誰かと食べることの大事さに気付かせてくれたのは、泉谷しげるさんの食卓日記だったんです」

 荒牧氏が影響を受けたのは、2023年10月19日号に掲載された回である。

〈週末にイイものを食べたいとか記念日に御馳走つくろうとかの気分がナゼかどんどん無くなってるな~。食欲は前より増してるハズなのにだ。コロナのせいでもある。独りで食べても寂しくないことを知ってしまったのだ〉

「家族はいるけど泉谷さんは、自分一人で食事を作って一人で食べてる。これは私自身の経験から想像したことですが、泉谷さんがおいしいものを作る気持ちをなくしてしまったのは、なにか違う、物足りないと感じていたからだと思うんです。一人で食事をするときは、『ご飯できたよ』と声をかけたり、家族の『おいしかったよ』のひと言が聞けませんよね。だから、泉谷さんの食への興味が薄れてきたという心情に共感したんです。年を取ったら家族が1人抜け、2人抜けしていくでしょう。料理を作るのは重労働だけど『早く食べてよ』と怒って言える相手がいる方が幸せだったと、改めて思いました」

 最後に荒牧氏はどんな食生活をしているのか、ある一日のメニューを披露していただいた。

朝=丸食パン、半熟卵、トマト・サニーレタス・生ハムのサラダ、ヨーグルト+イチゴ、カフェオレ。

昼=レストランであさりのショートパスタ。

おやつ=クリームパン、コーヒー、のど飴。

夜=カキフライ2粒、豚肉とキャベツの甘酢みそ炒め、雑穀とカイワレの雑炊、もずく酢、どら焼き2分の1、甘夏4分の1。

 ヘルシーな食事に加え、早朝の散歩とラジオ体操を日課にしている荒牧氏は、ぜい肉のない体形を保ち、マニキュアが似合うおしゃれな女性だ。彼女は地域の人たちとも交流し、その輪を広げている。

 単なる食事ではなく、食を通じて人とつながり、心身両面で満たされることこそが、理想の食生活といえるのではないだろうか。

取材・文 松田美智子

荒牧麻子(あらまきあさこ)
味覚のギャラリー主宰、献立評論家、管理栄養士。女子栄養大学卒業。1973年からホテルオークラヘルスクラブの栄養相談を担当。97年より続く本誌コラム「私の週間食卓日記」で、のべ1300人の著名人に食のアドバイスを行っている。

松田美智子(まつだみちこ)
作家。フィクション、ノンフィクションともに多くの先品を手掛けてきた。小説に『天国のスープ』、ノンフィクション作品に『仁義なき戦い 菅原文太伝』、『水谷豊 自伝』(共著)等がある。

週刊新潮 2024年5月2・9日号掲載

特別読物「連載27年1300人登場 『三國連太郎』『中村メイコ』『赤塚不二夫』…『週刊新潮』名物コラム『私の週間食卓日記』の食の哲学」より

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