高校時代に父親の愛人を好きになってしまった…43歳男性が“両親は世間の常識からかけ離れたところで生きている”と感じた瞬間とは

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もうひとりの「アキコ」

 暁子さんを理想の女性だと刷り込まれた彼が、ちゃんと恋愛したのは大学生のときだった。所属していたサークルのOGである4歳年上の女性だった。

「一応、文学研究会みたいなサークルだったんですが、音楽や映画のオタクみたいな人たちもいるようなところで……。その先輩は、暁子さんと同じアキコという名前だったからつい惹かれてしまって。漢字だと亜希子でしたが。性格も暁子さんに似てましたね。じっと人の目を見て『どうして? 晋也くんはどうしてそう思うの?』と迫ってくるところとか」

 亜希子さんと一緒に映画を観に行ったときもそうだった。こういうシーンが好きだったという話をしていると、彼女は「どうして?」と彼の顔を覗き込んだ。

「彼女といると自分の世界が広がっていく。自分が決めたことでも、彼女の意見が聞きたくなった。亜希子と暁子さんを重ねているところはあると思うけど……」

 亜希子さんと5年つきあったところで、彼はこのままでいいのかなと思うようになった。自分も就職したし、亜希子さんはもうじき30歳になる。結婚したほうがいいのではないかと思いつつ、結婚という紙の契約が意味をもつとも思えなかった。

「結婚したほうがいいのかなと正直に言いました。すると亜希子が『したいの?』って。いや、別にしたいわけじゃないけどと言ったら、じゃあこのままでいいでしょって。その1年後、彼女が妊娠していることがわかったときも、彼女はこのままでいいと言い張ったんです。だけど僕が日和ってしまった。まだ別姓という意識もなかったし、同棲のまま子どもが産まれるのはかっこ悪いのではないかと思って」

 父に話すと「おう、いいじゃないか、結婚なんてしてもしなくてもいいんだよ」とわけのわからない回答があった。隣には暁子さんがいてニコニコ頷いている。母に話したら、「あら素敵。子どもが産まれるのね。おめでとう」という反応だった。誰も結婚が当然とは言わない。世間の常識から離れたところで生きている人たちなんだと、晋也さんは改めて感じたという。

 そして彼は亜希子さんを説得、婚姻届を提出した。

後編【父親が自死してわかった母親と愛人との理解不能な三角関係…息子の43歲不倫夫は「結局、自分も愛人に全く同じセリフを言ってしまった」】へつづく

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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