判決確定からわずか2年で死刑執行…元“地元紙エース記者”が語る「飯塚事件」もうひとつの“謎”とは

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「決して無駄ではない」

――飯塚事件を巡っては西日本新聞での検証キャンペーンに続き、今回のドキュメンタリー映画が公開されることになりました。さらに、このタイミングで、当時の目撃者が“実はあの時の証言は違っていた”と声を上げています。お2人は、再審についてどのような思いを持たれていますか。

傍示:「これまで死刑確定後に再審の扉が開かれた事件というのは、全て元死刑囚が存命の間に再審開始されています。死刑執行後の再審請求でその扉が開かれたことはないわけです。弁護団共同代表の徳田靖之先生たちが再審請求を始めた時から、僕は相当厳しいだろうという思いで見ていましたが、やっぱりその思いは変わってないですね。死刑執行した事件で再審開始すれば、再審制度の是非に踏み込まざるを得ないし、結局、司法制度そのものに対する大きなメッセージにもなるわけです。それはもう法務省が頑として動かないでしょうね。絶対にこの再審開始は認めるなといった通達も、もしかしたら出てるんじゃないかと思うぐらいで、死刑執行後の再審はもう不可能だろうなと思ってます。しかし、当時の目撃者が証言を覆したり、新たな証言、新証拠が掘り起こされたりすることで、将来的な再審制度の見直しに繋がっていくとは思っています。だから、決して無駄ではないし、今後もこの再審の状況を見守っていきたいですね」

宮崎:「傍示が言うように、飯塚事件で再審の扉を開いちゃうと、“国家の殺人”に繋がってしまうんですよね。なので、基本的にはあり得ないと思ってます。“久間が無罪です”と言ってしまったら、日本の死刑制度が崩壊するんですよ。国家が間違えて人を殺してしまいました、ってことになる。司法界が久間の再審を認めることは、僕はあり得ないと思います」

「まだ解ける可能性がある」

――そもそも他の事件と比べ、死刑確定から執行までの期間があまりにも短いと感じます。

傍示:「確定から執行まで2年というのは異常な速さですよね。じっくり再審準備をしていたところでいきなり執行となったことに、いまだに弁護団の徳田さん、岩田(務)さんは悔いてらっしゃるわけですね。もっと急いでやっておけば、死刑が執行されることはなかったっていうのをいまだにおっしゃいます。でも、常識的に考えて、確定から2年で執行ってのはあり得なかったですね」

宮崎:「僕は明らかに足利事件の影響だと考えています。足利事件の再審請求審で、東京高裁がDNA型の再鑑定を決定する2ヵ月前に久間の死刑が執行された。最高裁で死刑が確定してる事件ですからね。これがひっくり返っちゃうとまずいので、“蓋をした”のではないか。飯塚事件と同じMCT118型というDNA鑑定が用いられた足利事件を巡って、再鑑定決定という判断が下された、その時、法務省の中でどんな議論があったのか。久間の執行の起案をどのタイミングで誰が決断したのか。久間が飯塚事件の犯人かどうかは、おそらく永久に分からないでしょう。ただ、なぜあのタイミングで久間の死刑が執行されたかという謎は、まだ解ける可能性があると思っています」

前編【元死刑囚は真犯人だったのか…「飯塚事件」でスクープを連発した「西日本新聞」が“ゼロからの再検証”に挑んだ理由】からの続き

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。

デイリー新潮編集部

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