松本伊代、センチメンタル・ジャーニーを「頑なに歌わなかった」過去… 転機は産休中に観たテレビ番組

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筒美京平の“大好きな三大ヴォイス”

 筒美京平作品では、第4位に『TVの国からキラキラ』、第6位に『ビリーヴ』、第7位に『ラブ・ミー・テンダー』と、シングルが上位入りしている。当時ヒットしただけでなく、今でもこれらの楽曲が支持されているのは、かの大作曲家が「平山みき(旧芸名・平山三紀)、郷ひろみと並ぶ“大好きな三大ヴォイス”」と松本を評し、力の入った作品だからに違いない。当の本人は、

「2004年に発売したCD BOXに寄せていただいたコメントで、そうおっしゃっていることを知ったんですよ。それまで、自分の声はずっとコンプレックスで、レコーディングの度に自分の歌声にガックリきていました。だから今のままでいいんだ、ってその時初めて思えました。平山みきさんの『真夏の出来事』はデビュー前の練習曲に選ぶくらい好きでしたし、本当に嬉しかったです!」

『センチメンタル・ジャーニー』に次ぐ人気の筒美京平楽曲は、3rdシングルの『TVの国からキラキラ』。本作は、コピーライターの糸井重里が歌詞を手がけたアイドルらしさ全開のポップスだが、そのキャッチーさもあってサブスク時代に人気が再燃している。ダウンロードではしっとり系のバラードが聴かれているのに対し、サブスクで華やかなポップスが人気というのは、他のアイドル歌手でもよく見られる傾向だ。ご本人的には“明るいアイドル王道路線”と、“フェミニンな路線”、例えば同年発売で5thシングルの『抱きしめたい』などと、どちらが歌いやすいのだろうか。

「『TVの国からキラキラ』は、最近、人気が出ているのを実感していました!こういったキラキラな路線も一時は遠ざけていましたが、やっぱり、皆さんに好きって言われるから歌うようにしていて、今はフェミニンな路線もキラキラなのも両方好きですね。歌詞にある『ねえ 君ってキラキラ』というセリフも、一時は恥ずかしかったのですが、今はまったくそんなことありません。ただ、この歌は、後半の“キラキラするもの”が続くパートの歌詞を間違えそうになるので、そこさえクリアできれば(苦笑)」

ビートたけしのイジリも「有難いです」

 続いて筒美作品では、1984年発売で通算13作目となった『ビリーヴ』もランクイン。尾崎亜美提供シングルが4作続いた後にリリースされたマイナー調の激しいポップスで、『時に愛は』以来、4作ぶりに累計10万枚を超えるヒットとなった。今でも、松本のコンサートやイベントで歌われることが多く、年々パワフルになっていることに驚かされる。

「この歌はドラマ(『転校少女Y』)の主題歌ということもあってか、今も等身大で歌えて、まったく恥ずかしくないんですよ。自分でも安心して歌っていて、どんな環境でも“どんとこい!”という状態です(笑)。声量も必要なので、音合わせ(リハーサルで音量をチェックすること)の時も『ビリーヴ』を歌うことが多いですね」

 当時は、ビートたけしが松本の歌をネタにすることが多かった。本作もサビの「ビリーヴ」が「ビリー」→「ビリ」と聞こえることから、“伊代ちゃんの運動会の歌?”とイジられることもあったが、当の本人はどう感じていたのだろうか。

「たけしさんには、よくお笑いのネタにしてもらっていましたね~。その頃から、まったくマイナスには考えていませんでしたね。たけしさんは、私のバックダンサーやコーラスをしてくれていたキャプテンの2人とも仲が良いし、彼女たちがデビル・ガールズをしていたこともネタにしてくださるくらいですからね(笑)。有難いです」

 なお、筒美京平作品集『トレジャー・ヴォイス』でカバーした中では、『シンデレラ・ハネムーン』(第65位)が一番人気となっている。これは、ダンスチームのアヴァンギャルディが『アメリカズ・ゴッド・タレント(AGT)』にて、本家・岩崎宏美版に合わせて奇妙なパフォーマンスをしたことで、松本伊代版にも人気が波及したためだろう。こんな曲も、松本は自身の声を活かし“大人カワイイ”感を醸しだして歌っている。

「この歌は難しいのですが、筒美京平先生のトリビュート・コンサート(2021年)で、ご本人の宏美さんと、早見優ちゃん、森口博子ちゃん、Little Black DressのRyoちゃん、武藤彩未ちゃんの6人で歌ったのがとっても楽しかったので、カバーに選びました。デビュー前、宏美さんがキャンペーンで全国の営業所をたくさん回られてヒットされたとお聞きしていたんです。だから当時、“宏美さん以上にたくさん回って頑張りなさい”とスタッフの方に言われ、励みになったのを覚えています。がんばって回ってちゃんと結果が出て、とても嬉しかったんです」

 周囲からイジられても、決して本気で怒ることなく笑って許す。周囲からアドバイスされた時は、素直に受け入れて自分の糧にしていく。松本伊代は、ただ、笑っているだけの人ではないのだ。だからこそ、誰もが気さくに話しかけることができ、誰からも愛される存在だと、つくづく感じさせられた。

 第2弾では、人気のアルバム曲について思う存分深掘りしてもらおう。

【松本伊代、本人も驚いた楽曲の“逆転”海外人気… 隠れた名曲がサブスク上位で「お目が高い(笑)」】へつづく

(取材・文:人と音楽を繋げたい音楽マーケッター・臼井孝)

松本伊代(まつもと・いよ)
東京都出身、1965年6月21日生まれ。’81年10月にシングル「センチメンタル・ジャーニー」でデビュー、累計30万枚を超えるヒットに。当時のキャッチフレーズは「瞳そらすな僕の妹」。以降も「抱きしめたい」「時に愛を」「ビリーヴ」「サヨナラは私のために」などがヒット。デビュー40周年のLIVEを機に再び単独自主公演など音楽活動に力を入れ活動中。早見優、森口博子との3人組でコンサート『青春のアイドルヒットステージ』を不定期に行っている。Instagramは(@iyo14_official)。

臼井孝(うすい・たかし)
人と音楽をつなげたい音楽マーケッター。1968年、京都市生まれ。京都大学大学院理学研究科卒業。総合化学会社、音楽系の広告代理店を経て、'05年に『T2U音楽研究所』を設立し独立。以来、音楽市場やヒットチャートの分析執筆や、プレイリスト「おとラボ」など配信サイトでの選曲、CDの企画や解説を手がける。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)、ラジオ番組『渋谷いきいき倶楽部』(渋谷のラジオ)に出演中。データに愛と情熱を注いで音楽を届けるのがライフワーク。

デイリー新潮編集部

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