松本伊代、センチメンタル・ジャーニーを「頑なに歌わなかった」過去… 転機は産休中に観たテレビ番組
記録と記憶で読み解く 未来へつなぐ平成・昭和ポップス 松本伊代(1)
この連載では、昭和から平成初期にかけて、たくさんの名曲を生み出したアーティストにインタビューを敢行。令和の今、Spotifyなどの音楽ストリーミングサービス(サブスク)で注目されている人気曲をランキング化し、各曲にまつわるエピソードを深掘りすることで、より幅広いリスナーにアーティストの魅力を伝えていく。
【写真】コンサートでもセットリストから外していて…「来てくださったお客様に謝りたいくらいです!」と当時を振り返る松本伊代さん
今回お話を伺ったのは、1981年10月にシングル「センチメンタル・ジャーニー」でデビューし、「花の82年組」のアイドルの1人として活躍してきた松本伊代。1993年に結婚したお笑いタレントのヒロミとは、これまでに「理想の有名人夫婦」ランキング1位に3度選ばれるほどのおしどり夫婦として知られる。一方、着実に音楽活動を続けており、近年は、早見優、森口博子とのジョイント・コンサートや、自身のソロ・コンサート、 韓国のDJ兼プロデューサー・Night Tempoとのコラボなどを行っている。
そんな松本伊代のSpotifyでの月間リスナーは約8万人で、このうち、海外の割合は2割ほど。だが一部の楽曲では、海外のリスナーが8割前後を占める“逆転現象”が起きている。この状況が、松本の再生回数上位15曲のうち、8曲がシングル化されていないアルバムの収録曲ということと大いに関係していそうだ。ちなみに、松本にストリーミングサービスを使っているか尋ねてみると、
「デビュー40周年(2021年)のプロモーションの時に、“Spotifyをお聴きの皆さんへ”といったコメント録りをしただけで、Spotifyという言葉すらあやふやだったんですが(笑)、今は、うちの子どもを真似て、私もプレミアム(広告なし)プランに入っています」
早速、Spotifyのランキングを本人と共に見ていこう。
一時は遠ざけていた「センチメンタル・ジャーニー」
前述のように、アルバム人気曲も多い松本伊代だが、再生ランキング1位はやはり、本人の代名詞ともいえる「センチメンタル・ジャーニー」で、2位に5倍近く差をつけている。当時のレコード売上も約34.3万枚と、売上2位の「時に愛は」の18.7万枚の倍近い自身最大のヒットだ。まさに伊代の“記録”にも“記憶”にも残る楽曲といえるだろう。あらためて、最初に本作を聴いた時の感想を尋ねてみた。
「やっぱりこうやって数字を見ても、他の曲とケタ違いなんですね~。『センチメンタル・ジャーニー』は、まず、湯川れい子先生の歌詞が手元に届いたんです。筒美京平先生の作品としては、珍しく“詞先”(詞が先に作られる)だよ、と言われました。最初は“伊代はまだ16だから”という部分が恥ずかしいなって思っていたのですが、京平先生の元へレッスンを受けに行って、実際にメロディーにあわせて歌ってみると、まったくそんな感じがなくて、“素敵な曲を頂いた!”って嬉しかった記憶がありますね」
デビュー曲にして大作曲家の楽曲を歌うことになったことについては、
「私はテレビっ子だったので、京平先生の楽曲にすごく親しんでいたことは確かですね。南沙織さんや麻丘めぐみさんなど、歌謡曲を聴いていたので、知らない間に好きになっていた作品が多いんですよ」
2021年に、筒美京平作曲作品をカバーした(一部セルフカバーを含む)アルバム『トレジャー・ヴォイス』を発売したのは、こうしたバックグラウンドも影響したのだろう。しかし、そんな大好きな筒美京平作品かつ最大のヒット曲である本作を、遠ざけていた時期があったそうだ。
「20歳を超えたあたり、ちょうど恋愛三部作(1986年から’87年のシングル『信じかたを教えて』『サヨナラは私のために』『思い出をきれいにしないで』)を歌っている時期です。16才の曲を歌うのが、恥ずかしくなってくるように感じていて。デビュー当時、記者の方から“16才って書かれているけれど、何才まで歌うつもりですか?”ってよく聞かれていて、“どうしてこんな質問をするんだろう?”って思っていたのですが、遂に自分でもだんだん恥ずかしくなり始めたんですね。テレビ出演時にもこの歌だけ歌ってくださいと言われることが多く、“他にも良い歌がいっぱいあるのに。もっと新しいのを歌わせてほしい”って歯がゆかったんです」
それゆえ、コンサートでも意図的にセットリストから外していたと言う。
「今は、その頃に来てくださったお客様に謝りたいくらいです!歌のお仕事が少なくなった頃も、イベントで歌うチャンスはあったものの、頑なに『センチメンタル・ジャーニー』は歌わなかったんです」
心境の変化は、1993年の結婚後に訪れた。
「出産でお休みをいただいていた時に、『夜のヒットスタジオ』(レギュラー放送は1990年に終了)のスペシャル版をテレビで観ていたら、過去のヒット曲を歌っている出演者の皆さんがすごく輝いていたんですよ。それで“私にもあんな素敵な曲があるのに、なんて勿体ないことをしてしまったんだろう”って反省したんです。たとえ昔の曲でも、まったく古い感じはなく、皆さん、今の魅力を出していたんです。考えてみると、演歌歌手の方々も、代表曲を歌い続けてらっしゃいます。それは、お客様みんなの望みを、客観的に見ることができているからなんですね。
そこからは、『センチメンタル・ジャーニー』を歌ってください、と言われたら一切断らずに歌うようにしています。最近も、アサヒ飲料『十六茶』のCMで、新垣結衣さんが♪結衣は朝、十六茶から~、と替え歌で歌ってくださるなど、やっぱり、曲のチカラは凄いですよね」
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