水原一平裁判 米国では罪を認めれば簡単に司法取引が成立する理由 「量刑算定表のレベルは2から3ほど下がる」

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アメリカは「自己負罪型」が主流

 一方、水原容疑者の司法取引は、まさに《自身の罪を認める代わりに刑が軽減する「自己負罪型」》の典型例であり、これは日本では採用されていない。カルフォルニア州弁護士の資格を持つ東町法律事務所の村尾卓哉弁護士が言う。

「今回の事件では違法賭博の胴元とされるマシュー・ボウヤー氏に注目が集まっています。しかし起訴状を見る限り、水原容疑者がボウヤー氏に関し、捜査当局が関心を示すような“内部情報”は持っていないと考えられます。水原氏とボウヤー氏のメールのやり取りを見ると、水原容疑者は単なる顧客の一人だったようです。そんな水原容疑者と当局が司法取引を結んで減刑を行うのは、『有罪であることを認めた』こと自体が理由なのです」

 なぜアメリカでは自己負罪型の司法取引が多いのか。この背景を理解するには、アメリカにおける司法制度の維持コストを考える必要があるという。

「アメリカは基本的に陪審制で裁判が行われます。陪審員裁判は、大変なコストがかかります。陪審員を市民からランダムに選ぶだけでなく、実際に裁判所に足を運んでもらい、弁護士や検察官が質問を行って選出しますから、それだけでも時間がかかります。評決の際は全員一致が原則で、例えば11人が有罪と認めても、1人でも有罪判決を支持しないと評決不能で裁判をやり直す必要があります。アメリカの弁護士は、刑事裁判では報酬を時給で計算しますので、裁判が長期化してしまうと、被告の負担も大きな額に達してしまうのです」(同・村尾弁護士)

減刑の予測

 もし容疑者=被告が最初から白旗を掲げていれば、このような陪審裁判にかかるコストや時間が大幅に短縮されることになる。

「被告が有罪を認めている事件は、検察(国)側にとっては、陪審裁判にかかるコストや時間を節約でき、また法的知識を持たない一般市民による陪審裁判で予想に反する判決が下る、というリスクを回避できます。結果的には、被告、検事、判事全員の負担が減るのです。つまり最初から罪を認めた容疑者は『司法制度の維持に必要な社会的コストを大幅に減少させた』わけですから、その“ご褒美”として減刑が行われるというわけです」(同・村尾弁護士)

 となれば、どれくらいの減刑が行われるのか、関心が集まるのは当然だろう。民放テレビのワイドショーでは日本人弁護士が「罰金刑で済む可能性もある」と指摘して話題になった。

 ここで注意が必要なのは、水原容疑者が訴追された銀行詐欺罪はカルフォルニア州の法律ではなく、連邦法だという点だ。日本経済新聞は銀行詐欺罪について、《最高で禁錮30年の重罪》と報じている(註1)。

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