進まない「教員の働き方改革」…多忙だからこそますます“ベネッセ依存”が進む教育現場の事情

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盤石な体制

 ベネッセの事情に詳しい学校関係者が話を引き継ぐ。

「推薦やAOなど、大学入試がこれだけ多様化してきたことも相まって、忙しい教員が効率良く最先端で全国規模の入試情報を得るためには、情報を持つ民間企業に頼らざるを得なくなっています。大手予備校が全国的に校舎を削減しつつある中、未だに全国にきめ細やかな営業網を持つベネッセこそが、一番の頼り先になっていることは間違いありません」

 大企業ならではの体制づくりも巧みだ。

「同社は大学の学生募集を主要事業とする『進研アド』という広告会社を子会社に抱えていますから、高校側だけでなく、大学側からも様々なデータが得られる強みも持っています。さらに、『ラーンズ』という子会社(今年1月からはベネッセ本体に事業が継承されている)では、過去の模試の問題などを活用し、学校ごとにカスタマイズした教材を効率的に作成する部隊まで揃っている。スケールメリットを活かしつつ、こうした盤石な体制が整えられている以上、なかなか他社には太刀打ちできない領域に入っているといえます」

教員の負担の上で……

 多忙な学校現場に対し、抜かりない事業を展開する実態が垣間見えるのだ。しかし、そんな“ベネッセ一人勝ち”状態の土台になっている「模試事業」こそ、教員の労働負担を増す一因になっている面があると、先の関係者は続ける。

「『進研模試』が多くの学校に導入された要因として大きいのは、やはりその“安さ”でしょう。ではその安さをなぜ実現できているのかというと、実施会場や試験官を各校に協力してもらっている点が大きいといえます」

 大手予備校が実施する模試の場合、予備校の校舎や外部の施設が試験会場となり、またアルバイトを雇うなどして、主催者側が自前で試験官まで用意するのが一般的な実施方法だ。しかしベネッセの進研模試の場合、会場は基本的に、私立も公立も高校側が提供した上で、試験官も教員自らが引き受ける形になっているのである。

「その場合、受験者の数に応じた教員が、丸一日、休日出勤を余儀なくされることになります。実際の業務は、問題の配布や解答用紙の回収などの単純作業でしかないため、生産性がなく、研鑽に繋がるようなこともありません。こうした教員の負担の上で成り立つ模試によって、現場のベネッセ依存が強まっていると考えると、これが健全な状態といえるのだろうかと考えてしまうところはあります」

 ちなみに、模試のために土日の出勤を強いられた教員には、PTAから謝金が支給されるのが慣例になっているのだとか。同社の躍進は、かような“特殊な事情”に支えられていたのだ。

「もちろん、教員の残業が減ればベネッセ依存がなくなるという単純な話ではないと思います。ですが少なくとも、国の未来を背負う若者の教育が、一民間企業への依存から抜け出せないままで良いものか、懸念しているところです」

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