全く飛ばない「新基準バット」で不適合製品2510本発覚…一流高校球児からは「木製バットの方が飛ぶ」という証言が

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「監督さんとも相談して」

 金属バットに関する先入観がこの合宿で崩壊したわけだが、試合でも木製バットに切り替えるかというと、そうもいかないようだ。箱崎を始めとする木製バットに好感触を得た球児たちは「(学校に)帰ったら、監督さんとも相談して」と言葉を濁していた。

「センバツでも、青森山田の一部選手が木製バットを使っていました。各校とも、新基準の金属バットを買い揃えるのに苦労したと聞いています。公立校は予算の問題があり、資金のある私立校でも品不足で入荷困難な状況でした」(前出・アマチュア野球担当記者)

 新金属バットの市場価格は1本3万円台後半から4万円台半ば。旧タイプは素材や形態によって異なるが、1本あたり約1万円後半から3万円台前半である。ある都立高校の監督によれば、新基準の金属バットへの切り替えは「22年のうちに通達された」そうだが、学校の予算には限りがある。予算を他の運動部とも分配し、不足分は「部費」の名目で毎月、全野球部員から数千円を徴収しているという。

 ある私立高校の指導者もこう言う。

「野球部を運営していくために最低限必要な金額の目安は、『部員一人につき、ボール1ダース』。部として、バットや練習用のゲージなどが揃っていて、ユニフォームやグローブにお金が掛からないというのが大前提ですが」

 箱崎たちが「相談して」と即答を避けた理由はこのへんにある。新金属バットをようやく買い揃えたばかりなのに、「木製バットのほうが良い」とは言いづらい状況なのだろう。

 木製バットは1万円台でも買えるが、耐久性に問題がある。金属バットが急激に浸透したのもそのためだ。木製バットは打ち損じのファールでヒビが入ることもある。雨に濡れたときはもちろん、湿気を吸えばそれだけで飛ばなくなる。

「学校や野球部と懇意にしている小売店にお願いして、野球用具を安く売ってもらっています。甲子園出場がかなった際にはその店を通して応援タオルを注文するなどし、恩返しをしていますが」(前出・私立高校指導者)

 木製バットは環境への問題も絡んでくる。

「メイプル、アオダモ、ホワイトアッシュなどの素材が主流ですが、長距離タイプのバッターとアベレージタイプで好むバットも変わってきます。バットでは素材となる木の植樹運動も進んでいますが、それでもまだ足らないくらいです。近年、メーカーが安価な新素材を見つける研究も進め、大学野球部などでテストをしてもらっています。違和感ナシの回答をもらっているので、プロ組織が公認すれば、市場価格も変わるかもしれません」(大手スポーツメーカー営業マン)

 夏の甲子園では自己負担で木製バットを入手して臨む球児も出てくるかもしれない。新金属バットの問題は、野球用具を見直す契機にもなりそうだ。

デイリー新潮編集部

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