ここにきて「Wikipedia 3大文学」に脚光…絶版の「原典」復刊、文庫フェア開催を実現させた“書店員の熱意”
山梨県が「フルーツ王国」になった理由
そして、『死の貝―日本住血吸虫症との闘い―』で描かれる「地方病(日本住血吸虫症)」は、かつて日本各地 で「不治の謎の病」として知られていた、寄生虫によって引き起こされる病のこと。
感染すると栄養を吸い取られ、黄疸や腹水を発症。子供が罹ると成長が阻害され、20歳前後の青年が、10歳の背丈のまま成長が止まっていた例もあり、実際にその姿をおさめた衝撃的な写真資料も残っている。
明治時代に入り徴兵制が開始された際、特定の地域だけ徴兵の合格者が極端に少なかったことに気付いた政府が、本格的に調査を開始。水田に潜む寄生虫が人体に寄生することで起こる感染症だと明らかになったが、安全宣言が出されたのは1990年代に入ってからのことだ。
『死の貝』では、寄生虫の特定から、寄生虫の中間宿主である淡水産の巻き貝 を根絶し、病を克服するまでの、医師や地域住民たちの長い戦いの歴史が克明に描かれている。
ちなみに、流行地の1つであった山梨県が現在「フルーツ王国」として知られるのは、貝の根絶のため、水田を果樹畑に転作してきた歴史と関係があるのだという。このエピソードからも、この病が長きにわたって人々を苦しめてきた事情が窺い知れる。
書店員の提案をきっかけに復刊が決定
版元の営業担当者は
「“Wikipedia 3大文学フェア”として、書店で展開して以降の反響は上々で、4月に文庫として復刊した『死の貝』は既に重版も決まっています」
と話す。実は3作品のうち『死の貝』だけは、別の出版社で単行本が出て以降、長く絶版状態が続いていた。その一方で、記事の“原典”を手にしたいというニーズはどんどんと膨れ上がり、中古本の市場では一時1万円以上もの値がつく“入手困難プレミア本”となり、復刊を求めるイターネットサイトにも復刊希望の投稿が相次いでいたという。
そうした状況に気付き、出版社にフェアの企画を提案したのは、未来屋書店の商品部に勤める井上あかねさん。
「去年の春頃にX(当時Twitter)でWikipedia3大文学の存在を知り、もともと好きで見ていたNHKの『ダークサイドミステリー』で“三毛別羆事件”と“八甲田雪中行軍遭難事件”が取り上げられていたことがきっかけで、“原典”を読みました。残りの1作品である『死の貝』も読んでみよう、と調べてみたのですが、単行本のまま絶版していると知りまして……。ぜひ復刊するべきだと思ったものの、ただ単に“復刊して欲しい”と伝えるだけでは実現性が低いと思い、3作品をまとめたフェアの企画として提案してみようと考えました」(井上さん)
この提案に版元は大盛り上がり。他社刊行の絶版本としては異例の速さで文庫化が決まった。
出版社から文庫化の打診について連絡があった際、著者の小林照幸さんは予想外のことに驚きを隠せなかったそうだ。
「とても驚きました。文庫化で多くの読者の方々に読んで頂けるようになることは嬉しいですし、新たな章を設けるなどの加筆修正も行いました。フェアをきっかけに、偉大な2人の先生の作品と並べて書店に展開して頂けることも大変光栄です」(小林さん)
Wikipedia3大文学フェアは、4月末から全国で展開中だ。