「ウルトラマン」大復活のウラにあった「“ドロ沼”裁判終結」「ディズニー・メソッド注入」「Netflixと新タッグ」
「ディズニー流」アプローチ
もう一つが、経営者の交代だ。17年にそれまでウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンでゼネラル・マネージャーを務めた塚越隆行氏が代表取締役社長(代表取締役会長兼CEO)に就任すると、映画・キャラクター業界に少なからぬ衝撃が走った。世界的なエンターテイメント企業のGMが、「老舗」とはいえ、年商にして数十億円の映像制作会社に転じたからだ。
またファミリーやキッズに向けた大衆マーケットを得意とするディズニーに対し、当時のウルトラマンは“コアファン向け”とも見られがちで「畑違い」にも映った。ただ、もともとウルトラマンはキッズ向けの作品であり、共通項は少なくない。
以降、ウルトラマンシリーズのビジネス展開に“ディズニー流”を彷彿とさせる取り組みが多く取り入れられるようになる。たとえば、同一ブランドを実写やアニメーション、映画、テレビといった様々な映像メディアを駆使して幅広い世代に打ち出していく戦略もその一つだ。
また近年はイベントにも積極的に取り組んでいる。「TSUBURAYA CONVENTION」や「ウルトラヒーローズEXPO」などの試みは、ディズニーがファンのロイヤリティを高めることに成功した「D23 Expo」や「スター・ウォーズ セレブレーション」と同じ仕掛けといえる。
巨大テーマパーク
さらに見逃せないものとして、テーマパークの存在が挙げられる。22年に中国・上海のテーマパーク「上海海昌海洋公園」にウルトラマンをテーマとした巨大エリアが出現。この「ウルトラマン・パーク」は大連や成都にも広がり、“ディズニー・メソッド”がいかんなく発揮された格好だ。
これら新たな展開はここ5年の間に起きたことで、成長の余地はまだまだ大きいと見られている。そのカギを握るのは――伸びシロのある国内市場も無視できないが――やはり海外に注目が集まる。
すでに円谷プロの海外でのライセンス売上はかなりのパーセンテージにのぼり、その多くを中国が占める。残りは東南アジアとなるが、特定市場への依存度が高まれば、ビジネス上のリスクとなりかねない。
実は円谷プロにとって、世界最大のエンターテイメント市場である米国は、ほとんど手つかずの状態にある。そんなビジネスチャンスの転がる広大なフロンティアを前に早速、布石が打たれ始めている。今年、米名門映像制作会社インダストリアル・ライト&マジック(ILM)によるアニメーションシリーズ「Ultraman: Rising」が公開されるのだ。
同作は円谷プロとNetflixが共同製作の形を取る大作だが、あえて日本の会社に制作を任せなかったのは“北米ファースト”の作品にするためだろう。日本のアニメファンや特撮好きを超え、もっと広く「大衆」にアプローチするという野心的な試みといえる。2024年はウルトラマンにとって、「世界進出」に向け“第一歩”を踏み出す記念すべき年となるだろう。