東京15区補選で「タワマン」問題は触れられず… 背景にある重要な課題とは
「南北移動」に難
江東区には、東京メトロの東西線・有楽町線のほかJR総武線や京葉線、都営地下鉄新宿線といった多くの鉄道が走っている。これらは東京駅や大手町駅、秋葉原駅といった都心部につながっているため、通勤の便は決して悪くない。
しかし、江東区の鉄道路線は多くが東西の移動で、南北移動は都営大江戸線に頼るしかない。大江戸線は場所によって大きな迂回を強いられるので使いづらく、江東区の南北移動は都バスが主力になっていた。
都バスの輸送力は鉄道よりも小さい。それゆえに以前からラッシュ時は混雑を極めていた。そこにタワマン乱立が拍車をかけた。通常、需要が増加するなら、バスも発着便数を増やすなどの対応策をとる。
だが、話はそう単純ではない。バスの運転本数を増やせば、道路が渋滞するという問題を引き起こす。また、駅前広場にバス待ちの長い列ができ、歩行者の妨げにもなる。なにより、昨今のバス業界は人手不足が常態化しており、とても運転士を増やせる状況になく増便は難しかった。
こうした状況から、東京都や江東区といった行政はバスよも輸送力の大きい公共交通の整備計画を練り始めた。その尖兵として、東京都は2020年から新橋駅と豊洲・晴海といった湾岸エリアを結ぶ東京BRTの運行を開始する。東京BRTは、湾岸エリアで建設が進むタワマン住民の通勤の足となることが期待された。
BRTだけでは今後も増える湾岸エリアの需要に対応できないと考えた小池百合子都知事は、2022年11月に東京駅と東京ビッグサイトを結ぶ東京臨海地下鉄の構想も発表している。東京臨海地下鉄は2040年代までに開業するとの目標を定めている。
東京BRTと臨海地下鉄は、江東区で増えるタワマン住民の足となり、通勤時間帯の混雑緩和に加えて江東区の発展にも大きく寄与する。
この問題に触れなかった候補たち
今回の東京15区補選で小池都知事は乙武洋匡候補の応援演説で何度もマイクを握ったが、東京BRTや臨海地下鉄に触れなかった。特に4月21日の日曜日と、選挙戦最終日となる4月27日の土曜日の豊洲駅前での街頭演説は東京BRTと臨海地下鉄をアピールする絶好のチャンスだった。
筆者は東京15 区補選に立候補した9名のうち、立候補の届出後にエベレスト登山へと旅立った福永克也候補を除く8名の候補者の街頭演説を取材している。多くの候補者が自民党の裏金問題や少子化対策といった一般的な政治課題を述べるにとどまった。
そうした中で秋元司候補だけが東京15区が抱える政治課題についても触れ、整備計画が進んでいる豊住線がもたらす江東区発展について演説をしていた。
豊住線とは、東京メトロ有楽町線の豊洲駅から東西線の東陽町駅、都営新宿線の住吉駅を経由して錦糸町駅まで乗り入れる支線的な路線だ。江東区は錦糸町駅までの開業を2030年代半ばとして計画を進めている。
そのほか、江東区を南北に縦断する越中島貨物線をLRT化した上で旅客転用する計画も進む。越中島貨物線のLRT化は2000年頃に浮上したが、その後は忘れられた計画になっていた。ところが、2023年8月に栃木県宇都宮市で新たにLRTが開業。これが活況を呈していることからLRT化への整備計画が再び走り始めた。
さらに、ゆりかもめを延伸する計画もある。ゆりかもめは新橋駅と豊洲駅を臨海部経由で結ぶ鉄道だが、当初は豊洲駅から晴海・勝どきを通って新橋駅に戻るという環状線化が想定されていた。そのため、豊洲駅は路線の延伸が可能な状態で建設され、現在は延伸を待っている状態のまま放置されている。
豊住線と越中島貨物線のLRT旅客化、そしてゆりかもめの延伸といった鉄道計画は、江東区が主導しているが、江東区だけで実現できない。隣接する中央区・港区・墨田区・江戸川区などとも協調しなければならず、さらに東京都の協力、国土交通省への働きかけも重要になる。東京15区選出の国会議員には、それらが求められる。
東京15区の選出議員にとって、タワマン問題とそれに付随する公共交通の整備は避けて通れない。今回の東京15区補選は話題の多い選挙だったが、そうした政策課題は残念ながら議論されなかった。
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